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【一歩】-3
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智明が洋之の行動をおかしいと感じるようになったのは、洋之が三人目の彼女と付き合い始めてすぐの大学二年の夏だった。
この日は高校のプチ同窓会があって、智明は洋之と並んで酔い覚ましに歩いて帰っているところだった。日付も変わるような時間だったが、用事でもあったのだろうか。幸平からの電話だった。
洋之は表情も変えず普通に電話に出た。けれど隣で耳を欹てていた智明は、その内容に驚いて洋之を見た。
「今、彼女といるんだけどさ、送ったら帰るから。時間は……ちょっとわかんないな。ああ……そう。それじゃ先寝ててよ。ああうん、じゃ」
「おい、なんだよ彼女って」
電話を切ったタイミングで思わず突っ込めば、洋之は何食わぬ顔でそれがどうかした?とでもいいた気に智明を見返した。さっきまでのしっかりした口調が嘘のように、顔は真っ赤で、酔っ払っているのがわかるほどだ。
「彼女なんて嘘つく必要なくないか?」
智明が訝しんでそういうと、洋之の口からはアルコール臭と一緒に盛大な笑い声が撒き散らされた。
「智明はまだまだだな」
「なにがだよ」
「嫉妬されてこそ愛は深まるんだって」
こんなことを洋之の口からきかされたのは初めてで、智明は呆気にとられた。これまでの洋之の態度を思い返してみたって、幸平のことはただの血の繋がった兄というだけで、それ以上にも以下にも思っていない風だったのだ。
やっぱり洋之は酔っ払っている。智明はそう思った。その証拠に気が大きくなっているのか、口調が舞台に上がった俳優のようになっている。
けれど真意は?酔っ払っているからこそ本心が見えるというものではないのか?これがただの兄弟愛の延長ならそれでいい。けれどもし自分と同じ恋愛感情だったら――
「それって……ユキはただ幸兄に甘えてるんだよな?」
「はは、何いってんだよ。兄貴さ、俺のこと超愛しちゃってんの。ね、知ってた?兄弟なのにマジだよ?マジ」
洋之は鼻歌でも奏でそうな勢いで智明の顔を覗き込んだ。電話で何をいわれたのか知らないが、余程嬉しいことでもあったのだろう。
「な、何でそう思うんだよ?幸兄に何かいわれたのか?」
「いわれなくたってバレバレ」
「そんな……ユキはどうなんだよ。幸兄のこと気持ち悪いとか思わないのか?だって実の兄だろ?」
智明は焦っていた。幸平が洋之を好きでいても今まで耐えてこれたのは、洋之にその気がないと思っていたからだ。
禁断の恋なんていうのは、結局報われないままいつか諦める日が来る。そのとき隣にいるのが自分であればそれでいいと思っていた。それなのに洋之のやっていることを真正面から捉えれば、洋之も幸平のことを好きだということになる。
「キモくねぇよ。超嬉しい。相思相愛ですげぇ幸せ」
ついに鼻歌が飛び出して、智明は洋之の半歩後ろで歩みを止めた。この事実を幸平に知られてはならない。そのことばかりが頭の中をぐるぐると、出口のない迷路のように回り続けた。
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