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【一歩】-4
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しかし智明の心配は杞憂に終わった。というのも洋之には想いを告白する気がさらさらなかったからだ。むしろ洋之のほうが想いを隠していたいと思っている節があった。
三人目の彼女と別れてからも立て続けに四人目、五人目と新しい彼女を作った。もちろん幸平に嫉妬してもらいたいという、ただそれだけの理由でである。
洋之の捩れた愛情が理解できたかといえば、半分も理解できてはいなかった。それでも幸平と実際に付き合われるよりは何倍もましに思えて、呆れながらも密かに洋之の彼女作りを応援していた。
四人目にもなると幸平も耐性ができてきたのか、彼女ができたと知っても激しく落ち込むようなことはなくなっていた。時々呼び出されて愚痴をきかされることはあったが、その程度だった。
初めて彼女ができたときのように、ショックの勢いで体の関係をもつようなこともなく、安堵する反面残念でもあり、なんとも複雑な気分だった。それでも幸平が時折みせる寂しげな表情には、何度も胸を締め付けられた。
この人を救って上げられるのがなぜ自分じゃないのか、自分のスペックのしょぼさに打ちひしがれては、幸平の気持ちを弄ぶ洋之が羨ましくもあり憎くもあった。
卒業を目前に控えたある日のことだ。洋之は大学卒業と共に会社の社宅に住むことが決まっていた。その荷造りを、幸平が仕事でいない昼間のうちから智明は手伝わされていた。最低限の荷物で引っ越すといいながら、この四年の間に増えた洋之の荷物は相当な量で、スーパーからかっぱらってきたダンボールの在庫は、あっという間に数を減らしていった。
「昨日、彼女と別れた」
洋之の突然の告白に、智明はダンボールの外側に内容物を書き記したラベルを貼る手を止めた。
「んで?なんで俺に報告?」
「べつに。最近じゃ嫉妬してくれなくなってきてたし、そろそろ頃合かなってさ。彼女くらいじゃもう弱いんだよな。結婚するとかいわないともう駄目かもな」
腹の底がちりちりと焦げるのを感じた。智明は洋之に見られないように唇を噛んだ。平常心平常心と自分にいいきかせてわざとらしく嘆息する。
「あのさ、そろそろ幸兄追い詰めて楽しむの止めろよ。趣味悪いって」
「趣味、か。そうかもな。思い描いた絵をばらばらのパズルにしてひとつひとつ反応をみながらはめていくんだよ。今のところ理想通りの絵になりつつあるわけだけど。まぁでもさ、どうせ追い詰めても智明がしっかりフォローしてくれるんだろ?」
「どういう意味だよ」
つい食い気味にいい返してしまい、しまったと心の中で舌打ちをした。ぎらついた洋之の瞳を目にした瞬間、洋之の仕掛けた罠にまんまと引っかかってしまったと気づいたのだ。舌なめずりでもしようものならすごく画になりそうな顔をしている。
「智明は彼女も作らず一途だよな。そういうのも悪くないと思うよ。でもさ、つまんなくないか?いつまでも片想い続けてて楽しい?」
「な……っ」
「俺に彼女ができるたびに、下心見え見えで兄貴の愚痴をきいてあげてるだろ?」
「……確信犯か」
「な、悪趣味なのは俺じゃなくて智明のほうだろ?」
洋之は赤い舌を覗かせて、にたりと笑った。
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