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【一歩】-10
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幸平が靴を履くのを確認して、最後ぐるりと部屋を見渡すと、ベッドの下に半分隠れるようにして何の変哲もない茶封筒が滑り込んでいるのを見つけた。智明は「ちょっと待ってて」と玄関に幸平を待たせ、その茶封筒を拾い上げた。
空かとも思ったが手に取ると膨らみがあり、重さを感じた。折り曲げられていない口を開くと、中でカサリと音を立てたのはUSBメモリーだった。おそらく電話をしてきた男のものだろう。わざわざ真新しい封筒に入れられているということは誰かに渡すつもりだったのだろうか。智明は中身のUSBメモリーだけ取り出してポケットにしまうと、封筒を元の場所へと戻した。
幸平はその間、ボーっと空を睨みつけていた。「ごめん、待たせたね」と努めて明るい声を出せば、智明の言葉に反応するように視線が智明に移った。
智明が部屋を出れば幸平も後ろについてくる。しっかりした足取りでとはいい難かったが、自分の足でバイク置き場まで来て、そして渡したヘルメットを被ってバイクに跨った。
「ちゃんと掴まってろよ」
智明が幸平の両手を掴んで自分の腹に巻きつけると、幸平は背中でこくりと頷いた。
ゆっくりとバイクを発進させる。高架下を潜り、慣れた道を行く。夜中で車通りは少なかったが、極力スピードを出さないように、カーブも慎重に曲がった。
ひとつ先もふたつ先の信号機も黄色く点滅していた。智明の前後に車はいなかったが、反対車線はこの先に高速の乗り口があるからか、ちらほらとヘッドライトを光らせて智明のバイクと擦れ違っていった。
静かな時間だった。ベッドタウンはすっかり夢の中だ。できることならこの現実も夢であってほしいと願いたいくらいに現実味がない。
家に着いたらとにかく早く眠ろう。目が覚めたら本当に夢になっているかもしれない。幸平もいつも通りで、やっぱり洋之を想って切なく笑うのだ。そうしたら明日こそ正面から抱きしめて、そしていうのだ。「愛している」と。
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