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マジで余裕ないかも…
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はぁ…
最近、気付けば英介の口からはため息が漏れていた。
それにつられる様に、前からも大きなため息が聞こえる。
英介よりも大きくて、いかにもその理由を聞いてくださいと言わんばかりのため息だ。
それを無視できる程、英介は強気になれない訳があった。
特に自分の前の席に座るこの男に対しては——
「なに?どうかした?」
内心面倒だと思いつつ、背中を突っついてやると、待ってましたの言葉を全面に浮かべた顔が向けられた。
「どうしたじゃねーよ。ガチャスケ余裕だな?」
上体を捻り、無遠慮に身を乗り出して来たのは、ガチャスケの命名者、小暮 達也(コグレ タツヤ)だった。
なんの因果か、幼稚園から高校まで、達也と英介は同じ学校で、幼稚園から小学校低学年までいじめられていたにも関わらず、いつの間にか親友になっていたと言う、妙な関係だった。
クラスが別れたのも、小学3、4年と、中学1年の三年間だけで、殆どの時を共にしていると言っても過言ではない。
因みに達也のせいで、英介のあだ名は小中高通してガチャスケだった。
「余裕って何が?」
「何がって…テストだよテスト!」
小さい頃からそうだったが、達也の言動はいちいち大袈裟で、どこか演技じみていた。
針の様に細い目を目一杯見開き、バンバンと机を叩くから煩わしい。
そんな気持ちを顔に出した処で、今更いじめられる事もないから、英介は思いっきり顔を顰めてその体を押し退ける。
「ウザいなぁー。余裕じゃないからため息ついてんじゃん?」
「ウザいとか言うなよ…」
そう言いつつ、大きく肩を落とす仕草もまたうざったい。
そんな達也に、アイドル系ではないが、骨格からがっしりとした逞しい体に、その細く垂れた目のアンバランスさが柔和なイメージをプラスして、黙っていればそこそこ女性受けしそうなのに性格が本当に残念で仕方ないと英介はいつも思うのだった。
だが、達也に彼女でも出来てくれれば、もう弄られなくて済むとも思うので、最近は、積極的にそのことを指摘する様にしている。
「だって、マジでウザいんだもん!」
だが、残念な事に、英介の語彙力がなさすぎて、本心は伝わらずただ達也を傷付けるだけだった。
「そんなに俺のことが嫌いか…」
「嫌いだよー。散々いじめといて、今更だろ?」
「ま、それもそうか…」
そうして二人で笑い合う。
ふと、もし逸郎が達也の様にずっと側に居たなら、このポジションには彼が居たのだろうか—と英介は思った。
そうなれば、きっと達也とはこんな関係になっていなかっただろうし、逸郎を意識する事もなかったのだろう。
それはそれで、寂しい気がする——だなんて思うのは、今の逸郎が言う様にキスをしたことで変に逆上せているからだろうか…
「おい…マジでそんなに余裕ないのかよ?」
つい真顔になっていた英介を達也が心配そうに覗き込む。
「うん…マジで余裕ないかも…」
英介は、首を傾げた。
よく考えれば、この中間考査で点数が上がらなければ、逸郎が解雇されてしまうかも知れない。
たかだか一ヶ月半で、それなりの結果が出るとは思いがたいし、母親はその点を考慮してくれるだろうが、数字しか見ない父や驚異の伸び率を謳い文句にしている派遣会社自体はどうだろう。
「やばい…マジで勉強しなくちゃ…」
「いや、今更だろ?テスト今日からだし」
呆れた様に笑う達也が英介は憎らしかった。
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