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そう言う精神論から始めないと
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「馬鹿って容量の悪い奴って言ってたけど、本当は当たり前のことにも気づけない奴のことを言うんじゃないかな?」
これが演劇なら、大根も大根、大大根役者ばりの棒読みで英介が呟いた言葉に「えっ!?」と、これまた大根役者もびっくりの大振りで、達也が振り返った。
「つまり、俺は馬鹿なんだよ。知ってる……俺は馬鹿なんだよ…」
元々重そうな瞼を更に重そうに座らせて、驚き顔のまま硬直する達也を見据えながら英介は頷いた。
達也は咄嗟に返す言葉が見つからず、英介の手元にある答案用紙の裏と英介の顔を何度も見返した。
「えっ?そんなに悪かったの?」
散々悩んだ挙句、達也が選んだ言葉がこれだった。
英介は黙って答案用紙を机に置く。
数Ⅱと書かれた答案用紙の名前の横には68とデカデカと書かれていた。
「マジかよ!?」
目を剥くと言う形容詞を実践した姿を、その日英介は初めて見た気がする。
達也は、机に両手を置いて、顔だけ突き出す形でまじまじとその数字を眺めていた。
「うっそ!?平均65点って言ってたよな?まさか…ガチャスケが!?あのガチャが!?平均点以上!?」
達也の大声に教室がざわめく。
68点は決して高得点とは言い難い。
それでも、数学は何度やっても補習をパス出来ず、進級さえ危ぶまれたくらいだ、英介の数学苦手は最早周知の事実だった。
「マジか!?ガチャ…まさかカンニング?」
近くに居た女子が、英介の方を見てニヤニヤと笑った。
クラスのヒエラルキーでダメンズとして低位にいることを自認している英介は、そんな失礼なことを言われても怒りもしなければ、傷つきもしなかった。
「ううん。カンニングなら、バレないようにもうちょいギリギリか、思いっきり高得点狙うでしょ?」
「じゃあ、なんなの?」
すかさず差し込まれた別の女子の言葉に、そこまでこの点数が信用出来ないのか…と流石に落ち込んだ。
「いや、4月から数学だけカテキョついてる…」
もちろん抗議はせず、事実だけを述べる。
それで、納得してくれるかと思いきや、いつの間にか集まったギャラリーは、まだ信用出来ないと言う顔をしていた。
その気持ちを代表するかの様に、達也がまた回答用紙に舐める勢いで顔を近付けて言う。
「つーか、どんだけ、そのカテキョ教えるの上手いんだよ!?」
「そうだよ。どうやって教えてもらったの?」
便乗して誰かが言った。
その声の主をぼんやりと視線で探しながら英介が答える。
「目先の感情に流されるな。冷静によく考えろ。お前は勘違いしているだけだ…って言われた……」
その言葉を聞いた全員の頭の上にクエスチョンマークが、浮かんだのは言うまでもない。
「でも…そう言う精神論から始めないと、ガチャスケにこの点は取らせることが出来ないんじゃないか?」
クラスのまとめ役であるサッカー部の男子の言葉に、皆がなるほどと言う様に頷いた。
納得がいってないのは、恐らく英介だけだっただろう。
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