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家庭教師は近所のお兄さん
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オレは特に何も取り柄もない。
これと言って秀でていると感じるものもない。
だから、せめていい大学を出て堅いところに就職できればいいとそれくらいのことしか考えていなかった。
高校生活も何となくぼんやりしていたら終わってしまったし。
友人と呼べる友人も特にはいない。
一人でいることが嫌いな訳じゃないけれど、誰かがいたら楽しいだろうなと思ったことはあった。
まぁ、そんな適当な生活をしていたけど。
いい大学に入りたいと言ったら両親は喜んでくれて。
それならば勉強を教えてもらえばいいんじゃないかということになった。
+++
「ごめんなさいね。私も勝手がわからないから頼めるなら湊くんかなって思ったのよ」
「大丈夫ですよ。僕も一緒に勉強できるし。絢くんはかわいい弟みたいなものですから」
「ありがとう。湊くんが引き受けてくれてよかった。絢斗ー! 湊くんが来たわよー!」
母さんは母親同士で仲良くしているご近所さんの息子。
オレにとってはお兄さんの湊兄(そうにぃ)こと、綿谷湊介(わたやそうすけ)に家庭教師を頼んだらしい。
「今行くから……怒鳴るなっつーの」
オレは文句を言って二階から顔を出して階段を下りていく。
湊兄は相変わらずニコニコしながらオレを見上げていた。
爽やかなブルーのサマーセーターとジーンズというラフな姿なのに、久しぶりに見た湊兄は眩しく見えた。
「最近会ってなかったけど……元気そうだね。まさか僕と同じ大学を目指すだなんて、なんだか嬉しいな」
「いや別に。ウチにお金ないの知ってるから国立に行きたかっただけ。どうせなら楽に就職したいし」
「楽って……そんなに世の中甘くないと思うけど」
クスクスと笑う顔はいつみても母親より美人だと思う。
湊兄はどっちかと言えば女顔で、色素の薄い薄茶の髪は母方の血のせいだとか。
確かクォーターって言ってた気がする。
瞳もオレとは違って、大好きとかなんとか、恥ずかしいことを連発していたのを思い出してしまった。
勿論、子どものころの話だ。
小さい頃は良く遊んでもらっていたけど、湊兄もオレも、大きくなるにつれて疎遠になった。
優しいお兄さんというイメージがピッタリくる湊兄には良く甘えていた気がする。
「湊兄もよくこんなことを引き受けたよな。まぁ、オレも気楽でいいけど」
「絢くんに久しぶりに会えるの楽しみにしてたし。じゃあ、早速勉強頑張ろうか?」
「しっかりと教えてもらうのよ?」
一言多い母さんを手でシッシッと追い払って、二人で二階へと上がる。
上がって少し奥の方の扉がオレの部屋、隣は妹の部屋だ。
「散らかってるけど、どうぞ」
「そんなこと言って、綺麗でしょう? 絢くんはなんでもできちゃうから」
なんでも……。
まぁ、一応できるけど。
でも、逆に言えば何も秀でているものもない。
そつなくこなす、というのがピッタリくるのかも。
そんなオレをいつも褒めてくれたのは湊兄だった。
「お。勉強してたんだ。エライエライ」
「……オレ、もう子どもじゃないんだけど」
「僕から見たらまだ子どもなんだけど、いきなり撫でるのは子どもにするみたいだったかな? ごめん」
湊兄の綺麗で長い指がオレの髪の毛を梳くように撫でるのが擽ったくて、すぐに身体を離した。
湊兄と俺とは五歳離れているから、高校生の俺は大学生の湊兄にとっては子どもと言われても仕方ないかもしれない。
オレが椅子に座って机に向かうと、湊兄が立ってオレを見下ろす。
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