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すれ違い⑦
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「喧嘩かな?」
「……いや、なんでもない」
別に何かを感じ取ったわけではない。しかし嫌な予感というものが胸の内から湧き上がるもので、先ほどの不良達が通り過ぎた横道を速足で駆け抜ける。そこを抜ければ、すぐに子犬がいるはず。
大翔の追いかけてくる足音を背後に聞きながら、その通路を抜けた。そして、そこで最も見たくない相手と対峙する。
「……渉」
「あぁ、鳴海さん」
彼がそこにいたことよりも、足元にある塊に俺は息をのんだ。それは、先ほどまで俺が撫でていた子犬の姿。何故か土埃で汚れて、遠目でも死んでいると分かった。
「そいつ……し、し、し」
「この犬?うん、死んでるよ」
大翔が息をきらしながら、俺に追いついた。しかしこの状況を理解できないのか、俺と渉を交互に見比べている。俺も全てを理解したわけではないので、この状況の説明ができない。ただ死んだ子犬の傍らに立つ無表情の彼が、異様な存在のように見えた。
「お前が……お前が殺したのか?」
静かに問いかければ、渉はしばし考える仕草をして「……そうだね、俺が殺したようなもんだよ」と頷いた。その肯定の言葉だけで充分だった。
彼に走りよると、力の限り殴りつけた。なんの受け身をとらなかった渉が、盛大にふっ飛ぶ。俺を即座に見上げてきた綺麗と称される顔に、赤い殴り痕がついた。口の端から血が流れている。口の中を切ったのだろう。
彼をどかすと、しゃがんで子犬を拾い上げて抱きしめる。気付けば怒りが先に立って叫んでいた。
「お前に、お前にこいつの命を奪う……奪う権利なんてない!」
いっているそばから涙が止まらなかった。温もりが過ぎ去ろうとしている子犬の体を強く抱きしめれば、俺の涙がその体に雨をふらす。
「他人の命をどうこうするっていう権利なんて誰にもないさ」
渉が立ち上がりながら、俺の言葉に返答する。
「それでも……それでもお前を許さない!お前なんて嫌いだ!大嫌いだ!世界で一番……嫌いだ、馬鹿野郎」
「……なんだ、少しは好かれてたってことか」
俺の告白に何故か卑屈な笑みを向けてくる。いつもの無表情ではない。殺気が宿る目つきに、怒っていた俺の体がすくんだ。
その威圧を放ちながら、一歩距離まで近づいてくる。俺の頬に流れる涙を手でぬぐってきた。殴られると思って身をすくめていた俺は、さらに身を固くして防御を固める。
「あんたは……俺の前だと泣いてばかりだな」
そういって大翔の横をすり抜けると、俺たちが通ってきた抜け道を曲がって姿を消した。あとに残された俺は彼が声をかけてくれるまで、そこで盛大に泣き続けた。
その日。俺は大翔と共に、校舎裏の桜の木の根元に穴を掘ってそこに子犬の遺体を埋めた。
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