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すれ違い⑨
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「面白いもん……?」
俺の身を乗り出さんばかりの喰いつきに、立川先生は胸元から煙草を取り出す。それに火をつけて吸いこむと、大量の煙を俺に向けて吐き出した。
話をもったいぶっているので急かすように咳をすれば、思い出したかのように話を続ける。
「それでなぁ。あそこから校舎裏が丸見えなんだが、一週間前ぐらいに問題児の坂崎が珍しくあそこに現れてよ。そしたら、犬を撫でてんだよな。お前はいいな、とか言いながら」
「犬?」
「そう、犬。そしたら、不良が数人あとから来てな。おそらくあの坂崎のことだから、以前彼に負けた不良共だろう。喧嘩でもするのかと思って見ていたら、興味なさそうにどっかへ行こうとしてた。そんな態度だった。だがつまらんと思った矢先、不良の一人が犬に気づいてな。蹴り飛ばしたんだ。そしたら坂崎の態度が一変するもんだから、数人がよってかかって犬を蹴りつける。次の瞬間、坂崎の電光石火の早業。奴ら一人残らず半殺しだ。あれほど圧倒的な喧嘩も、久しぶりに見たぜ。まぁ俺の若いころに比べれば、あんなもんそこらへんでよく」
「先生、それ本当か!!」
先ほどまで必死に支えていた資料が、腕から滑り落ちる。だが、気にしている暇などなかった。
俺はもう一度「本当ですか!!」と昼休み中の階段であることも気にせず、半狂乱で叫んでいた。通り過ぎる生徒たちの好奇な視線も、気にならない。
「本当だ、この目でみたさ。まぁ、信じるかはお前次第だが。本人に確認した方が早いんじゃないか?」
「え、でもどこにいるか……ここ一週間会ってないし……」
「よく言うじゃねぇか、馬鹿は高いとこが好きだって。屋上で煙草吸いに行く時、時々あったぜ。馬鹿一人に」
最後まで聞くなんてこらえ性がないから、資料を拾うことも忘れて階段を駆け上っていた。途中階段に立っていた大翔に「先生の資料!!」と走りながら告げて、そのまま一直線に屋上を目指す。
呼吸が乱れたが、それよりも心の霞みが晴れて清々しい。自然に渉の名を呪文のように念じて、しまいには小さく口で唱えていた。何故かはわからないが、走って聞きたかった。あいつの言葉の意味を。
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