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すれ違い12
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俺の様子に本気で渉が疑問符を浮かべてくるのだから、こいつの思考がどれほど常人から外れているかが分かる。
別にコンビニパンがいいとか、重箱がいいとか言ってるんじゃない。問題はそこではなくてだね、渉くん。
「普通そこは、作ってきてくれって頼むもんなの。考えろよ、馬鹿」
「へぇ……じゃあ、作って」
「それが人にモノを頼む態度か!」
「鳴海さんってお母さんみたいだよね」
そうしていつもの憎たらしい笑みを唇に浮かべながら、渉が深くお辞儀をした。そして一言。
「これから毎日、俺のために弁当を作ってください」
「……材料費だせよ」
肯定の意味でお辞儀した頭を優しく叩く。
渉は顔をあげて見てくるので、まだ残っていた焼きそばパンの袋を開けた。彼は彼でまだ、どこか釈然としない顔で弁当の残りに箸をつけている。その睨みつけるような視線に耐えきれず、俺は何だと疑問をぶつけた。
「鳴海さんが笑ってない」
「……別にいいだろ」
「よくない。ねぇ、笑ってよ。俺あんたの要望を聞き届けたつもりだけど……まさか、嘘つく気?」
「あぁ、しつこい、顔近い!分かったよ、弁当の唐揚げ全部よこせ!」
「あぁ。鳴海さん、これ好きだもんね」
「知ってたのかよ!」
「もちろん、好きな人のことだから」
さきほどから「好き」の言葉に変な反応をしてしまう自分が悔しくて、ごまかすために弁当箱から唐揚げを素手でつまもうとした。しかし、弁当箱を遠ざけられる。またも意地悪されたと涙目になったとき、唐揚げを箸でつまんで俺に差し出してくる。
「はい、あ~ん」
「……いや、自分で」
「あ~ん」
どんな言い訳も通用しない威圧感に呑まれる形で、結局口を開いて唐揚げを咀嚼させてもらう。
俺がそれを喰ってかみしめれば、ひさかたぶりの唐揚げに口元がほころんだ。そして、渉に「美味い!」と笑いかけた。
「ようやく笑った」
そう言って俺に笑い返す彼の笑顔に、なぜあの時助けたかが分かった気がする。
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