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餌はしたたかに振る舞う
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包みの中から、芳ばしい匂いが薫った。
あ!と声をあげたオメルの前で広げたそこには、大量のピタ(薄焼きのパン)と薄切り肉が入っていた。
「えっ!すごいなメシだ!」
「取ってきたんだ」
「でも食堂にはあいつらがいるんじゃないのか?邪魔されなかった?」
シアンの横に手をついたまま、足をぴょんぴょん跳ねさせて喜ぶオメル。この反応は予想通りだ。
「……そうだね、だから正確には 盗って きた。せっかくだから食べてよ」
「いいのか?いいのか?」
「勿論」
オメルがそおっとピタに手を伸ばして、かと思えば掴んだそれに勢いよくかぶりつく。
「うまい!」
そもそもピタにはそれ自体に味がついておらず、固く乾いているから、スープや葡萄酒に浸して食べる物。
……の筈なのだが、オメルはご馳走のようにがっついている。
「こんなふうに…っ…食べかけじゃないピタを両手で持って、バリバリかじりたいなーって思ってた」
「……君は街に出掛けたことがないのかい?バールで食事をしたりは?」
「ないよ。街はここより怖いから俺が買い物したら八つ裂きにされるってあいつらが言ってた」
「なるほど」
ガリッ、バリッと音を立てて、丈夫な歯で噛み砕き、早くもふたつ目に手を伸ばしている。
シアンはやれやれと溜め息を付いて、膝に置いたピタの上に、器ごと盗ってきたクリームをたっぷりと乗せた。
カイマックという羊の乳のクリームだ。
さらに塩漬けにされた薄切り肉を乗せて、それをオメルに差し出した。
「こうやって食べるの」
「………ゴックン」
焦って頬張るオメルを諌めるように、ゆっくりとした所作で手渡した。
で、オメルが受け取ろうとしたのだけれど……シアンは何故か離さない。
「これ、あと少し我慢すれば……クリームがピタに染み込んでもっと美味しくなるのだけれど」
「………え」
その言葉に、オメルが期待いっぱいの顔で口元を弛める。
「……」
「……ま、だ?」
「うーん」
「…………まだ、ダメか?」
「あと400セクンダ待とうか」
「そんなになのか!?」
真剣そのもののオメルが、そんなに我慢できないと目線で抗議してくる。
「…っ…うそうそ。僕が次のを作っておいてあげるから、これはすぐに食べていいよ」
「やった♪」
シアンの許可がでたところで、一度匂いを吸い込んでから、シアンが手離すのも待てず大きく口を開けた。
「……ぅぅぅ……うっまぁ…」
うっとりと味わい、幸せそうに目を細める。
今度オメルを街のバールに連れていこうと、シアンが決心した瞬間である。
「うまいなこれ!肉も…ぜいたく…」
「落ち着いて食べなよ。ほら、クリームが」
「うむっ?」
幼子を相手にするように、口の端についた白いカイマックを指で拭うと、それをペロリと舐めとった。
「……//」
落ち着きのなかったオメルの頬が、途端にカアッーと赤くなる。
「照れている?」
「ふぇ!? てっ照れてないけど!?」
「そう、じゃあー……綺麗に舐めてあげるね」
「…ッ…わわわ」
ウブなオメルに顔を近付け、直接唇に舌を這わせる。
ペロッ..........
仕事時のそれと同じ笑みが、シアンの顔に浮かぶ。普通の笑い方を忘れてしまった彼だが、こういう時の表情は驚くほど豊かで生々しかった。
「う…うう~~~!エロいぞシアン!」
「ごめんね、僕エロいから。お詫びにはい、お肉をどうぞ」
からかいがいのある反応を返すオメル。シアンはすぐに顔を離して、食べかけのピタに追加の薄切り肉を乗せてやった。
「…もうっ…モグモグモグモグ…
からかうの…ッ……やめろ、よ……モグモグ」
照れて怒って肉を頬張って、忙しない。
「…ッ シアンは?シアンも食べろよ!」
自分はいっこうに食べようとしない彼に対して、ヤケクソ気味にオメルが聞いた。
「僕はいらない」
「なんで!…モグ…」
「今朝も言ったようにもともと小食なんだ。いつでも客を取れるように、常に腹を空っぽにしておくのが癖付いてね」
「…ふうん?(モグモグ)」
到底意味を理解していない表情で、相槌(アイズチ)をうつオメルだった。
「シアンっ、次のっ、次の食べていいか?」
「いいよ」
「やった~!…て、もぐっ…ん、ん
……ん~~、これもうっまあ…!」
「ほらまた、クリーム。……舐めるよ?」
「──ッ ぶふ!な、舐めなくていいぞ!?」
誰に盗られる訳でもないのに、落ち着きなくピタを頬張るオメル。
そんな食べ方だと喉につまらせると忠告しようとした矢先に──案の定そうなった彼は、赤い顔で頬を膨らませて、胸を叩いて苦しんでいた。
シアンは作り物の左手で、彼の背中をさすってやった。
「水を飲まないとね」
──
「シ、シアン、やっぱりやめようよ…」
「ここまで来てそれ言う?」
それから少し後のこと──
彼等は食堂へ戻ってきていた。
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