アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
餌はしたたかに振る舞う
-
シアンはそれ等の手をひとつづつ外して、オメルに声をかけた。
「来て。手伝ってくれるかい?」
「…っ…お、おう!」
彼は新たな酒器を手に厨房側に入ると、石窯の下を覗く。
「オメル、悪いけど僕の代わりに火をおこしてほしい」
「火?いいけど、なんで?」
「酒を美味しくするんだよ。片手だと上手くできないから、頼むよ」
小ぶりな鍋をひとつ持ち出し、その中に葡萄酒を注いだ。
オメルは言われたとおり道具を使って火をおこす。慣れた手つきだ。
パチンパチンと炭の周りで火花が弾け、竈(カマド)の中が熱くなると、シアンはその上に先ほどの鍋を置いた。
火にかけられた酒は、しだいにグツグツと煮立ってくる。
「シアンこれ何?あいつら熱湯のむの?」
「いやそういうわけじゃなく…」
「火傷するの好きなの?」
「…」
見物人が鍋の前に集まる中、注目の的にされているオメルは相変わらずシアンの背後から離れない。
料理なら、酒に何かしらを混ぜるのだろうか。何人もの酔った赤い目が次の一手を待っているようだ。
「…そろそろか」
だがその一手がないまま、シアンは火を消してしまった。
「できました」
「?」
「酒器を渡してください。それと瓶(カメ)から水を──そうですね、ひと掬い入れれば丁度よい温度で飲めるかと」
「馬鹿にしてんのか!これで終わり!? 冗談だろ」
火にかけただけで終わったところで、納得できない彼等が憤慨するのは当たり前──。
今度こそ無事ではすまない。
“ ひええええ!嘘だろシアン!? ”
「温めただけで美味くなるわけないだろうが!」
“ うんうんそうだよなっ。そうだよな!? ”
「その煮立った酒をおキレイな顔にぶっかけてほしいのかよ?」
“ にっ逃げなきゃ…!! 逃げなきゃ不味いぞシアンー!! ”
落ち着いているのはシアンただひとりだけ。
あたふたオメルは置いておき、荒ぶる男達に彼は酒を差し出した。
「どうぞお飲み下さい」
「そんなので騙されるか。全部見てたんだぞ?温めただけで味が変わってるわけがない」
「飲んでみなければわかりませんよ」
「試す価値もないだろう。だいたいお前はクルバンの癖に俺達に対して──ッッ」
「どうぞ(ニコリ)お 飲 み く だ さ い」
「ッ…!? お…おう…!?」
何故か確信のあるシアンの態度は、隊員が尻込みするほどの余裕っぷりだった。美しい顔の意味深な迫力に気圧されて、酒の器を受け取る。
「味は如何でしょうか」
「いかがと言われても別に何がどう変わるってんだこんな…──っ、……ん?これ、は……!?」
「……」
「なんだこれっ…味が全く…違う…!?」
ザワッ
「美味くなってる……のか……!? 不思議と甘いぞ」
「貴様もう酔っ払ってるだろう。器をかせ!」
「俺にも飲ませろ!──…!」
「変だな…!! 酒が甘く変わっている…!!」
「鼻につく香りも消えてるな。飲みやすい」
“ え、どおいう、こと…? ”
何のことやら分からずじまいのオメルはまだ怯えているが、酒を飲んだ隊員の反応は良好だった。
「今は温かいままですが、再び冷やして飲んでも美味いですよ」
「そりゃあいいな!やるじゃないかクルバン」
「皆さんのお役に立てたなら嬉しいです」
酸味が消え作り立ての味に戻った葡萄酒。機嫌を直した面々はシアンへの怒りを捨てて晩酌を再開する。
......
コトン
「──…はい、君にはお水」
「……。シアンは、魔法使いみたいだ」
「魔法なんて使えないさ」
───…
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
27 / 107