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白い花
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「キレイだろ?オレの庭で見つけたんだよ」
掌の半分もない小さな花だ。
「…庭というと、王宮の庭園の事かい?」
「ううん、オレが生まれた村にあったんだ。ここに来る前は父ちゃんと一緒に死んだ人間を地面に埋めてたんだけど、そこだけは誰も近付かない…オレだけの庭だった」
「死人を埋める…。では君の父上は墓守りだったのか」
本来キサラジャに墓はない。それが神の教えであり、国の決まりだからだ。
「そうそう、死体(アイツラ)ってほんとクッサいの。しかもさ、いくら深く埋めても風で土が飛ばされて出てきちゃうから大変なんだよね。だから毎日水をまいて土を固めて、飛んでかないように気ぃつけてさ」
死んだ人間はすぐに火で燃やして太陽神の審判を受けさせ、そこで良き者は陽の国へ、悪しき者は地獄へ運ばれる。
しかし生前に悪業を重ねた者で、神の審判を恐れて火葬を拒む者は昔からいるのだ。そういった連中は密かに土葬で葬られてきた。
つまりそれを請けおう《墓守り》は、娼婦や処刑人と同様に存在を認められない賤人というわけだ。
「で、水撒きのときに、これが土から生えてるのを見つけたんだ。これだけじゃなくて他にも何本か固まって生えてた…な?すごいだろ?」
「……!」
オメルの話を聞きながら、シアンは瞠目して差し出された花を見詰める。
オメルが言う意味での驚きとは少々違うかもしれない。彼はこれを " 花 " と呼ぶことも、もっと華やかな花を見たことも触れたこともあった。
クオーレ地区の中枢──王宮の前の庭園に咲いているし、働いていた売春宿でも、他国の客が機嫌取りに渡してきた事がある。
だが──そうか
ここキサラジャで、王都の外で花が咲いている光景は無かったかもしれない。
食物となる野菜も、穀物も、自ら育てようとする者などいないから畑すら…この国には存在しない。雨が降らず常に砂が吹き乱れる土地で、植物が生きていける筈がないと。
ましてや、花なんて
「いつかこれで庭を真っ白に染めるんだ。オレと……父ちゃんの庭を、キレイなこいつでいっぱいにする」
「──…」
「それが俺の夢だよ?」
「…そう」
シアンを覗き込みながら、まるで励ますかのように彼の問いに答えるオメル。
目的……なのか。だがオメルのこれは明らかに " 夢 " と呼ぶに相応しい。
目的と言うにはあまりにふわふわしているし、それに何より輝いていた。
その輝きが眩しくて見ていられなかったのか、それとも単純に愛おしくてたまらなかったのか
シアンは咄嗟にオメルを抱きしめていた。
「…っ…シアン?」
「……」
「どうした?」
「君のそれは…良い夢だね」
「そ、そうかな、……へへっ」
立ち上がったシアンに片腕で肩を抱かれ、オメルは本を持ったまま照れて笑った。
....ギュッ
「あ……あんまりくっ付いたら……恥ずかしいよ」
「恥ずかしがってもいいよ」
「またそうやってからかってるだろ…//」
「からかってない、本気。……思わず君にキスしたくなってるくらい、本気だけど?」
「それちょっと…っ、ドキドキするからやめて…!?」
お年ごろらしく赤くなってたじろぐオメルを、シアンは構わず腕の中に捕まえた。
何故だろう
守りたくて仕方がなかった。
それがオメル自身なのか、彼の夢なのか、どちらだろうと大差ないが、壊れてくれるなとシアンは願った。
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