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ウッダ村の民兵
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それから陽の日が頭上に登りきるより早く、彼等はウッダ村に辿り着いた。
もともと、王都の影に隠れて稼ぎの少ない村だ。舗装のされていない道と、ポツポツと点在する土壁の家。
「部下の報告にあったとおりだな…」
だが今は大量の天幕(ゲル)がひしめき、建物の隙間を埋め尽くしていた。
二人はラクダを降り、手網を引いて歩き出した。
「そういえばお前のその格好は何だ?隊服はどうした」
「これは昨日バシュに渡された服ですが」
「そ、そうだったな」
「ちなみにこの帽子はバシュの調度品の棚から拝借した物です」
「……。もう勝手にしておけ」
隊服でない普段着姿に、ターバンではなく帽子を被ったシアンは悪びれることなく答えた。
「僕よりもバシュの服装のほうが問題ありかと思いますよ」
「そんなわけあるか」
生意気なシアンを放って前に向き直ったバヤジットだが、天幕がひしめくこの場所に人の姿はない。
だが使われている痕跡はある。なにより、あたりにただようこの異臭──。きっと、管理の範疇(ハンチュウ)を超えた数の平民達がここで暮らしているのだ。
「…っ」
バヤジットは砂避けの布の下で、不快な臭いに顔を歪めた。
「不衛生ですねぇ」
すぐ後ろで平気な顔で呟くシアンが信じられない。
熱い空気とあいまって、ひと息吸うごとに気分が悪くなる。
「在中の近衛兵がいるとしても、ここではない気がします」
「だろうな。平民の姿が見えないのも……別の場所へ集まっているからか?」
「あちらの方角が騒がしいですね」
「行ってみよう」
声のする方を目指し、天幕を押し退けるようにして二人は進んだ。
「─……、───。───…」
“ 中から声がする……?無人ではないのか ”
通り抜ける時、天幕の中からヒソヒソと話し声が聞こえた。もぬけの殻、というわけではないらしい。
僅かな気配を察知するバヤジットは、その静けさを不気味に感じた。
それから天幕(ゲル)の群れを抜け出たバヤジットは、広がる光景に仰天した。
「なんだこの数は……!?」
建物の無い村のはずれに、彼の予想の倍は超える男達が集まっていたのだ。
彼等が何をしているかと言うと、貧相な棒を手に二人組みになって、互いに打ち込みの訓練をしている……ように見える。
「これが集められた平民か?これ、は……酷すぎるな」
どこを見ればよいのか。数だけ異常に多い男達は、まったく統率されていない。
やる気なくヘラヘラと小突き合う者もいれば、がむしゃらに棒を振り回して疲弊している者もいた。
「 " これ " ……何をしているのでしょうか」
「部下の話によれば、タラン侍従長がこの村へ民兵を集めたらしい…。つまり、" あれ " が……兵士という事になる」
「兵士── " あれ " が?彼らに戦場なんて行かせたらひと振りも叶わず敵の刃に倒れそうですね」
バヤジットの後ろから顔を出したシアンも、何の冗談かと呆れている。
「~~~!!」
いつもの癖で我慢ならなくなったバヤジットが、ラクダの手網を放り投げて走って行った。
「おい貴様ら!」
「…んあ?──って、ひええっ!?」
「なんだそのフヌケた刀の振るい方は!やる気があるのか!?」
「きっ貴族さま!おれはっそのっ…おれらなりに力いっぱいやってまして………………というかどうしてこの時間に貴族さまが訓練場に…」
「これのどこが訓練だ兵隊を舐めるな!」
「ひっええええーーー!」
手前にいたひとりの男が犠牲となり、すごい剣幕のバヤジットに怒鳴られている。
バヤジットが捨てた手網を代わりに拾ったシアンは、遠くからそれを見守っていた。
荒馬が乱入した訓練場は大混乱だ。
「近衛兵はどこだ?ここにいるのは皆平民か?なんの目的で集められた?貴様らはいったい全部で何人いるのだ!?」
「おれはなんも知りません~!」
ここへ連れて来られた経緯。誘った人物とその目的──。
自らが将軍であると公言するあの隊服姿で正面から乗り込んだところで、相手に警戒されるだけだ。有益な情報を得られるとは思えない。
「……偵察に不向きな男(ヒト)だ」
無意識に笑っているシアンは、不器用なバヤジットを馬鹿にしているのかどうなのか…。
彼は天幕の杭にふたつの手網を結び止めてその場を離れた。
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