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堕落
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「あいつ…っ」
民兵を問い詰めていたバヤジットは、ふと振り返ったそこにシアンの姿が無い事に気が付いた。
“ また勝手な行動を……ッ、やはり兵隊の心得がなっておらん。王都に戻ったら基本から叩き込んでやる!…いや違うか。そもそもあいつは兵隊ではなかったな、なら…… ”
「あ、あのぉ~貴族さま?」
「…っ、なんだ!?」
「ひぇっ!いえ!なんでもございあせん!」
バヤジットに胸ぐらを掴まれている平民の男が、宙に浮きそうな足をガクガクと動かして縮こまる。
そんな二人の周りには、頭を土に付けて跪く他の民兵達──。プライドも何もあったものではなかった。
彼等はみなバヤジットが何を問うても平謝りで、何ひとつ情報をよこさない。
「貴様らはもういい時間の無駄だ!村に配属されている近衛兵はどこにいる?」
「ほかの貴族さまは今ごろっ……、えーーっと……」
「はっきり言え」
「…っ…村の北側に家屋がありましてそこに何人かが集まってやがります、はい」
口ごもった平民は、バヤジットの目に鋭く睨まれてストンと表情を失ったかと思うと、消えそうな声でごにょごにょと話し始めた。
「食いもんの支給もそこであります」
「天幕があった場所とは別か?」
「そりゃあ…貴族さまがおれらになんか近づきませんよ。近づくとしたら──…」
「……?」
含みのある言い方だった。バヤジットが怪しむと、周囲の男達も頭を下げたまま互いに目配せをする。
“ この者達、何を隠している……? ”
「貴様がそこへ案内しろ」
「ぅ……、へい!」
平民達の妙な一体感に薄気味の悪さを覚えるバヤジットは、男の胸元を引きずったまま近衛兵の所へ案内させた。
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