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罪ほろぼし
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門を開け、迎えのいない玄関で立ち止まる。
まとった砂埃を落として、バヤジットは肩の上で大人しくなったシアンに声をかけた。
「おい、着いたぞ」
「……」
「誰に見られる訳では無いが……自分で部屋まで歩くか?」
「……まさか、今夜も僕を泊める気ですか」
「そうだが」
「ふっ……正気とは思えませんね」
「……!」
バヤジットは唾を呑む。
シアンを隠した衣の下で…カチャリと渇いた音がした。
その時バヤジットはようやく、自分の腰の湾曲刀がこの青年に奪われ…自らの背中に鋭い切っ先があてがわれている事に気が付いた。
“ 武器を奪われたとまったく気付けなかった…。たいした奴だ ”
「寝首をかかれると思わないのですか?まさか僕の疑いが晴れたわけでは無いでしょう」
「…っ…当然だ。お前と侍従長との関係は必ず暴かなければならん」
「なら…」
「──だがお前は、ここで俺を刺して逃げるような馬鹿ではない。それくらいは俺にもわかる…」
「──…」
「…ッ」
背に当たる切っ先の硬さを感じながらも、冷静にバヤジットは受け答えた。
緊迫した空気。
しばらく沈黙が流れた後──
「…ハァ」
溜息をついたシアンが、刀を床に捨てた。
キンッ───
「…そうですね。貴方を殺める事にはメリットを感じません。少なくとも、今は」
諦めたシアンが脱力するのを確認して、バヤジットは肩で小さく息を吐いた。
「気がすんだか?」
「…疲れました」
シアンが捨てた湾曲刀をそのままに、バヤジットは玄関から階段を上がって二階へ向かった。
目的の部屋に入ったバヤジットがシアンを下ろした先は、寝台の上だ。
衣の内側で周りが見えていなかったシアンは、頭に被った衣をとって部屋を見渡した。
「ここは、……いつもの部屋と違いますね」
「俺の寝室だ」
「貴方の?」
意外に思ってシアンがバヤジットを見る。
それほど広くない部屋の隅で、バヤジットは何重にも着込んだ上衣を脱ぎ捨てていた。
きっちり着込まれた隊服を脱ぎ去るごとに、厚みのある褐色の身体が晒される。筋骨隆々としたその肉体は野性的でありながら、厭らしく見えないのは彼の禁欲的な性格の表れか…。
「お前もさっさと着替えろ。夜は冷えるから水浴みは明日にすればいい」
あらかたを脱ぎ終えたバヤジットは、寝台で動かないシアンへ背中ごしに声をかけた。
「何を固まっている?着替えを…、──ッ」
「……」
「替えの服が…無かったな。俺のを貸すからこれを着ておけ」
乱れた服装で座るシアンに、手にしていた肌着を投げてよこす。
代わりに着替えを失ったバヤジットは、下だけを穿いた上裸のままの格好で遠くからシアンに振り向いた。
「…これは貴方の寝衣でしょう?僕にわたせば当然、貴方の物がなくなりますよ」
「俺はこのままで構わん」
「僕もこのままで構いませんが…。汚れた服で布団に入るなと言うのであれば、裸でも」
「…ッ…駄目だ」
「何が駄目なのですか?」
スレマンに脚衣(シャルワル)を奪われ、帯も腰あても取られ、身体をまさぐられて弛んだ胸元から肌を露出させたシアン。
渡された肌着を横に置き、シアンは艶めかしく首を傾げた。
「貴方だって……さきほど欲情していたでしょう」
「…っ」
「誤魔化しはムダと思いますが」
彼は左胸に手をやり、留め具を外して上衣を完全にはだけさせた。
「ここへ来てください、バヤジット様」
そしてバヤジットへ右手を突き出す。
暗い部屋の隅で、バヤジットの顔が動揺するのを見逃さない。
「人は欲を誤魔化せられない……貴方も同類だ」
「……」
「信頼?信用?どうして近衛兵将官である貴方が、クルバンで……さらにギョルグである僕にそんな感情をいだくことがありえましょうか……!」
「お前は俺を見くびるのか…!?」
「貴方の僕に対する信頼が偽物だと証明したい」
一糸まとわぬ姿となって、シアンはバヤジットを誘惑した。
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