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罪ほろぼし
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しかしバヤジットはその誘惑にのらなかった。
「シアン…お前に邪(ヨコシマ)な感情を抱いたことを否定はできない。あいつに侮辱されるお前を傍観していながらすぐに助けられなかったのは俺の弱さだ」
「……!?」
「俺はもちろん完璧では無い。頼むから…っ、そうやって俺を挑発するな。俺は頭に血がのぼりやすい」
「ではっ…何を思って、貴方は僕を寝室に…!?」
「それは──…ッ、お前を閉じこめる為だ」
シアンのいる寝台に近付こうとはせず、バヤジットは斜めに視線をそらしている。
話す口ぶりも相変わらず余裕が無く、男は弱さを隠せていなかった。
「お前はしばらく外出禁止だ。侍従長との繋がりが怪しまれる以上、勝手な行動は容認できん」
「ッ…それは」
「ここはこの建物で唯一鍵がかかる部屋だ。身体を拭きたければ奥の洗い場を使えば済む」
「つまり、軟禁生活をここで送れと?」
「…そうだ」
「いつまでですか?死ぬまで?」
「いや……。
俺がお前を隊から追い出すまでだ…!」
「…ッ!?」
今度はシアンのほうが狼狽えた。
「今のお前はスレマン将官の預かりだが元の推薦先は騎兵師団だ。クルバンとして連れられて来た新兵の身柄は──俺ひとりにはどうすることもできん。だがお前が騎兵師団の配属となるなら将官の権限でお前を除名処分にできるだろう」
「それはっ横暴ではないですか?」
「横暴だろうと仕方がない!死ぬまで軟禁よりはマシと思え」
「そんな馬鹿な…っ」
夜の館に、シアンの珍しく大きな声が響く。
「できる筈がありません…!僕に推薦状を送ったのは貴方よりずっと高位の貴族です。勝手に僕を追い出しては反感を買いますよ?」
「誰に目をつけられようが構ってられるか。お前は…危険だ」
バヤジットの意思は固いらしく、シアンは焦燥する。
誰に利用されようがどんな侮辱を受けようが、構いやしない。だが兵団を除名されれば、賤人であるシアンは王宮に近付くすべを永遠に失うのだ。
そうなれば、シアンの計画はすべて白紙に戻ってしまう。
「……!」
させて たまるか
「──…ッ とにかくそういう訳だ。お前が何を企んでいるのか知らんがもう諦めろ」
「お待ちください!」
「──ッッ !?」
鍵を持ち、寝室から去ろうとするバヤジットの懐に、シアンが飛び込む。
シアンの右手には掌ほどの小さな刃物が握られていた。
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