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古典剣術
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──…
「ここは迷路か…!」
首都ジエルの南端にある、今は破壊された神殿の跡。
瓦礫の中にもぐったバヤジットは、祭壇の下の隠し階段から、先日見つけたばかりの地下道にはいっていた。
シアンとタラン侍従長が密会していた、あの場所である。
階段を降りるとそこには扉があり、バヤジットはその扉を強引にこじ開けてこうしてひとり潜入したのだ。
しかし、いくら先に進もうとも…
「はぁっ…はぁっ、くそ!また道が終わっている…!」
無数の分かれ道がバヤジットの行く手を阻むのである。
少し進めば道がふたつ現れ、片方を進めばまたふたつ現れ…。そのうち行き止まりになる。
短気なバヤジットにはなかなかの拷問だ。
地下の調査を始めて、これで九日目。
日がな姿をくらませては怪しまれる。敵にバレないよう秘密裏に、少しずつ調査を進めるバヤジットだが、今日もまた…残念ながら収穫は無さそうだった。
“ まだこの通路は続くのか… ”
手に持つ灯りが消えてしまう前に、バヤジットはまた調査を打ち切るほかなかった。
バヤジットが神殿の外に出た時、時刻はもう日没を過ぎていた。
今の季節、朝だろうが昼間だろうが太陽の光はほとんど地上に落ちてこない。そんなキサラジャは先日の嵐のせいもあってすっかり冷え込んでいる。
「あいつは──…まさか外で寝起きはしてないだろうな」
帰路に着いたバヤジットがボソリと呟いた。
あいつとはシアンのこと──。自邸の寝室に鍵をおろして監視していたのに、自らが不在の時を狙ってまんまんと脱走されたきり、行方をくらましている。
部下を使って捜索したが捕まらない。彼は近衛兵宿舎にも戻っていないらしかった。
だが二日前のことだ。食堂に入るシアンを見た兵士がいたらしい。
どうやら彼はまだこの地に留まっているようなのだ。
何故?
何の為に──
『 死ぬ前に成すべき事は決めています 』
あいつの目的はいったい何だ?
何か手がかりを得られないものかと、シアンとの会話を思い起こそうとするバヤジット。
『 この御恩に報いるべく僕は貴方の下僕となります 』
『 苦しそうですね……バシュ。ナニか醜いものでも見ましたか 』
『 ……そういう話、貴方はお嫌いでしたね 』
『 僕は…貴方の味方になったつもりはありません 』
けれど…彼の狙いはわからない。
シアンのつむぐ言葉にはどれひとつとして彼の本心が見えてこない。
何もわからないまま…バヤジットに話しかける時の、あの儚い表情ばかりが脳裏をよぎる。
そしてどういうわけか、シアンのあの顔を想うほどに…バヤジットの胸はえぐられるように苦しくなるのだ。
きっと、誰かに似ている──。
裏切られ、貶められ、捨てられて、いろんなものを諦めざるを得なかった、そんな顔でシアンが笑うからだ。
《 もう、いい 》
いつかのあの御方と同じ顔で──
《 僕は‥‥‥疲れたのだ 》
──…!
胸騒ぎがする。バヤジットが額に汗を滲ませて周囲を見渡す。
当然、バヤジットの心の内を読んだ者などいないのだから、こちらに注目する街人はいなかった。
「…ッ…シアン…!?」
だがバヤジットは辺りを見澄ますのを止めなかった。
この街のどこかにシアンがいて、こちらを見張ってやしないかと。愚かな考えを浮かべた自分を陰で笑っていないかと。
──…だめだ、何処にもいない。
「何処に隠れた…ッ」
シアンがいないとわかると、バヤジットは走り出した。
切羽詰まった将官の様子に、何事かとクオーレ地区の門番が不思議がる。
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