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◆03
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穏やかな秋晴れの日だった。
その頃には、特に晴れの日になると、シュウヘイは気落ちする様になっていた。
その日も寮にも校舎にも居たくなくて、かと言って、街に出て行く気もせず、ただひとけのない特別教室棟の周りをウロウロと歩き回っていた。
特別教室棟の裏には大分昔に使われなくなった平屋建ての野外部活動部室棟があり、いつまでも取り壊されずに残っていた。
更にひとけのない、その傍を通りかかった時、物陰から突然手首を掴まれた。
ハッとする間も無く、部室棟と器具置き場の間に引き摺り込まれる。
不思議と恐怖は湧かなかった。
ただ、驚きに声を上げることすら出来ない。
硬いコンクリート壁に背中を押し付けられ、覆いかぶさる形で無骨な両手がシュウヘイの顔の真横に置かれる。
その影は少なく見積もってもシュウヘイより15センチ高い身長に、腕などは骨と皮と言ってもいい位細いシュウヘイの二倍はあるのではないかと思える程の逞しさで、両手両足が自由な状態だと言えど、とても逃げ場は無い様に思えた。
この体勢からして、シュウヘイがずっと隠し、嫌悪してきたのと同じ性癖の人持ち主ただと思って間違いないだろう。
それに気付いた時、もし、ここで襲われるのならそれでもいいとシュウヘイは思った。
長年隠してきた想いに乙女チックな妄想など抱いてはいない。
むしろ、これくらい強引に奪われなければ、卑屈に捻れた感情を切り開くことさえ出来ないかも知れない。
冷静になった今、恐怖がないと言えば嘘になる。
だが、それよりも期待を込めた目でシュウヘイは真っ直ぐに正面を見つめた。
暗がりに目も慣れて来て、向き合った顔がようやく見える。
「えっ…スルガ……?」
シュウヘイの目に映ったのは、最も意外な人物だった。
ソッチ系と噂の立つ誰でもなく、むしろクラスの隔たりを抜きにして目立つくらい家柄も人柄も良いと言われる男が切ない顔つきでシュウヘイを見つめていた。
何かの冗談かと思ったが、その目はとても真剣に見える。
それだけで言わなくてもわかってしまった。
まさか、スルガがそう言う性癖を持っていただなんて…
恐らく、自分と同様にそのことをずっと隠し続けていたのだろうと思うと、親近感が沸いたが、何故、自分にこの様な事をしているのかは全く想像がつかなかった。
スルガとシュウヘイは同じクラスであり、二年時から四人部屋の同室でもあったが、まともに会話を交わした事すらなかった。
もちろんそれは、シュウヘイが避けていたからだ。
特にスルガだけを避けていた訳ではなく、妙な言い方ではあるがシュウヘイは分け隔てなく周囲を避けていた。
特別に思われる事も思う事も無い筈の彼がこうして接触して来た事がわからない。
きょとんとした顔で、見つめていると、スルガの口が小さく開いた。
「お前もそうなんだろ?」
ああ―そう言うことか…
その一言で納得したシュウヘイは、続けて言われた「キスしてもいいか?」の言葉に静かに頷いた。
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