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梅雨は時期は過ぎたというのに降り続く雨。
「…いいかげんにしてくれ…」
じめじめと続く雨に嫌気がさし、ため息まじりな声が漏れる。
倉本 春樹(クラモト ハルキ)は資料が山積みなデスクに倒れ込むように伏せた。
憂鬱なのは雨のせいだけではない。
その元凶をじっと睨みつけるが、仕事に集中しているのか全く反応がない。
なぜ俺がこんなに悩まなければならないのか。
この間までの自分が恨めしくなり、深いため息がこぼれた。
3ヶ月前
「え、…異動ですか?」
突然呼び出された倉本は、部長の口からでた言葉に思わず聞き返した。
この会社に就いて五年。
何故、今なのか。
取引先をやっとのことで口説き落とし、ここからという時の異動通知。
何故、自分が選ばれたのか検討がつかない。
真っ青な顔で立ち尽くしていると、部長・瀬戸内(セトウチ)は盛大に笑いだした。
「倉本、おまえが考えてることとは違うぞ
」
何が違うのか分からず、腹をかかえて笑う上司を見つめ返す。
「片瀬だよ、企画の片瀬 尚吾(カタセ ショウゴ)知ってるだろ?」
「…ええ、知ってますが…」
片瀬 尚吾と言えば、うちの会社の有名人だ。
一年前に入社した社員だが、その仕事ぶりとルックスで女性社員からは『王子』の愛称で親しまれている。
『王子』のネーミングセンスは疑うが、別の会社から引き抜かれたということからも有能な人材だとわかる。
「そいつ、今日からうちの部に異動だから。倉本、お前の下につける。」
「えっ、」
予想外な返答に固まっていると、部長はさらに続けた。
「俺が育てた、お前なら色々勉強になるだろ。まあ、片瀬のあの顔と身のこなしなら営業のほうが向いてるだろうしな!頼んだぞ~」
呑気な顔でひらひらと手を振りながら去っていく姿を見つめながら、思わずため息が漏れる。
こうなったらもうだめだ。
瀬戸内部長は優しい雰囲気を醸し出しているが、一度決めたことは断固として通す人だ。
重い足取りで自分のデスクに戻ると、一部始終をみていた内田 智(ウチダサトル)がニヤリと微笑みながら肩に手を回してきた。
「いや~大変だなぁ~」
「…他人事かお前は…」
内田とは入社時から一緒で瀬戸内の下で共に仕事をしてきた同期。
瀬戸内も今や部長だが、入社当時は倉本、内田の教育担当として同じチームで働いてきた。
「瀬戸内さんが言うことはしっかりやんねーと!お前も知ってんだろ?いつも穏やかな顔して笑ってるけど、仕事となったらあの人鬼だぞ、鬼。手抜いて片瀬のやつを指導してみろ?あのときみたいになって………うん、しっかりやれようん…」
「…だな」
すっかり入社当時を思い出して落ち込む内田を横目に、倉本はやりかけの仕事にとりかかる。
これから来るであろう片瀬への心配事は、一瞬のうちに頭の片隅へ追いやられたのである。
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