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Ωの花嫁~誰のために花は咲く2~
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「んっ…」
身体を休めようと軽く横になるだけのつもりが、いつの間にかベットで眠ってしまっていた椿は、隣の部屋から微かに聞こえた扉の閉まる音で目が覚めた。
「誰か…来たのか…」
ベットに手を着いてゆっくりと上体を起き上がらせた椿は、薄暗いベットルームの閉ざされたままの扉を薄目で見つめながら耳を澄ませる。
だが、いくら待っても足音や物音はせず、聞こえてくるのは木々の騒めきと微かな雨垂れの音だけだった。
(楓…だったのか)
先程の扉の閉まる音は、楓が様子を見に来て部屋から出て行った音だと判断した椿は、丸まっていた背中を伸ばすため軽く伸びをし、ベットから立ち上がった。
そのまま明かりをつけようと、ベットサイドに置かれたスタンドライトに向かうと、すぐ横に置いてあったナイトテーブルの上に一枚の便せんが置かれていることに気が付いた。
椿はスタンドライトを点け、いつのまにか夜になってしまい薄暗くなってしまった部屋を微かな光で灯すと、便せんを手に取った。
「やっぱり、楓が来ていたのか」
置かれていた便せんには、端正でありながら柔らかい印象の楓の字で書き置きがされていた。
『真一朗様には夕食を辞退させていただくようにお伝えさせていただきました。本日は、このままゆっくりお休みになられてください。ですが、お腹が空かれたままでは椿様は眠れないと思いますので、お目覚めになられた時は遠慮なく私に声をかけてください』
手紙を読み終えた椿は、楓がどんな顔でこの手紙を書いたのか容易に想像が出来、思わず笑みを浮かべ、安堵の溜め息をつく。
「ったく…。本当によく出来た執事だ」
椿は楓からの手紙をナイトテーブルの上にそっと戻すと、もう一度軽く伸びをした。
「よしっ。今なら、まだ楓に追いつけるな」
扉の閉まる音を聞いて間もないため、今なら廊下で楓に追いつけるだろうと思った椿は、急ぎ足でベットルームを出て、廊下に繋がる扉を開ける。
「ん?」
すると、何かが扉に引っかかったような違和感を感じたため、椿は扉の下に視線を落とすと、思わず息をのんだ。
「…!」
扉と廊下の床との僅かな隙間に、見覚えのある鮮やかな赤い花弁が見え、椿は慌てて扉の反対側を覗き込んだ。
「なんで、こんなところに…」
そこには、椿と同じ名前の赤い花が、数枚の花弁を散らした状態で扉の下に引っかかっていた。
椿は力が抜けたように床に膝をつき、花弁がこれ以上散らないようにそっと椿の花を扉の下から取り出すと、そのまま手の中に包み込んだ。
「浩二朗…」
忘れようと記憶の奥底にしまい込んだ名前を、椿は思わず口にしてしまう。
その瞬間、まるで走馬灯のように駆け巡った記憶に、椿は居てもたってもいられなくなり慌てて立ち上がると、部屋の扉を閉めることも忘れ、無我夢中で廊下を走り出した。
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