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3年 11月
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「詩音は本当に練習熱心だなぁ」
「うん、僕お父さんみたいに上手くなりたい!」
見てると嬉しくなる笑顔と、頭を撫でてくれる大きくて優しい手、そして深く真っ直ぐな箏の音色
俺もいつかこうなりたい
憧れのお父さんの為に、いつも優しい姉さんの為に
お母さんの厳しい稽古に耐えてきた
大人達は身分にしか興味が無い
「あの箏曲界隈トップを争う藤原会の息子さんですって」
微塵も無いように思える尊敬の意の台詞のせいで、俺は事 あるごとに特別扱いを受けてきた
「なんで詩音だけ、ずるい」
最初は家柄に興味津々だった同級生は、徐々に非難をした
俺は何も悪い事をしていないのに
中学は地元を離れたい
そして家柄を隠して平穏な生活を送りたい、友達が欲しい
そう心の中で願っていた俺に、お母さんは水瀬学園を勧めた
偏差値の高さと評判の良さを重視したに違いない
地元から離れられる、親の期待に応えられる
俺は二つ返事で承諾をし、水瀬学園へ進学した
それと同時に使用人が週に3回来るという条件の元、学園の近くで一人暮らしを始めた
お母さんと違って我が子に甘いお父さんは、時々使用人と 一緒に様子を見に来てくれた
無理はしてないか、学校は楽しいか
いつ会ってもお父さんは、昔から変わらない優しく温かい 憧れの人だ
ーー
ある日姉さんから連絡が入り、休日に会うことになった
音楽大学に通っており現在4年生、俺とは7歳差であり藤原会の跡取りだ
卒業と同時に許婚と結婚、そしてお母さんと世代交代がある
時間を割いて来るということは、よっぽど大事な話があるに違いない
待ち合わせていた喫茶店に入り、既に到着している姉さんの前へと座る
「詩音ちゃん!久しぶりねぇ、元気にしてた?」
「元気だよ、姉さんも元気そうで良かった」
弟の俺とは違って色々重荷があるにも関わらず、姉さんは いつも朗らかで温かい態度で接してくれる
きっとお父さんに似たのだろう
「えっとね、今日呼んだのは……」
先程までの穏やかさが打って変わり、みるみるうちに曇っていく
その表情を見る限り明るい話題ではなさそうだ
「姉さん、ゆっくりで良いよ、大丈夫」
「ありがとう…えっとね、お父さんとお母さん、離婚する ことになったの」
「え……」
「……それでね、お父さんは藤原会を破門、されるの」
頭が追い付かない
離婚……破門?
確かにお母さんは、俺と姉さんに甘く優しいお父さんをよく怒っていた、「そんな教育じゃ駄目だ」と
でも、離婚をするという発想をしたことが無かった
箏曲界隈の藤原会で、離婚は有り得ないだろうと信じていた
でもそうか、もうすぐで家元が姉さんへと移る
このタイミングを見計らったのかもしれない
「わたし……」
姉さんの目からポロポロと涙が溢れ出した
「姉さん」
昔お父さんがよくやってくれたみたいに、そっと頭を撫でる
「ごめんね、詩音ちゃん……わたし、お姉ちゃんなのに」
「関係ないよ、頼ってくれて嬉しい」
ただでさえ忙しい時期にこんな事が起きて、いっぱいいっぱいになっているのだろう
涙は止まる事を知らず、どんどん溢れ出てくる
姉さんもお父さんの事が大好きだった
きっと姉さんは、お母さんの事も大好きだった
跡取りである為俺以上に、両親を尊敬しており期待に応えようとしてきた
姉さんの為に何ができるだろうか
自分の中で起こっている困惑と失望の渦はひとまず置き、 静かに姉さんに寄り添った
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