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3年 12月
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あれから話は順調に進み、正式に離婚をするのは3月末、家元が姉さんになってからとなった
しかしお父さんは離婚前に家を出て行く事となり、前夜に 家族4人で取る最後の晩食に呼ばれた
ピリピリとした空気感の中取った食事は、安易に喉を通ってくれなかった
沈黙を破ったのは「これからお父さんとは会ってはいけません」というお母さんの言葉だけだった
なんでお父さんを破門するんだ
ちゃんと話し合ったら解決するんじゃないのか
どうしてお父さんは、何も言わないんだ
…
俺達の事、大好きじゃなかったの…?
もう、二度と、お父さんの笑顔見れないの?
俺から、大好きなお父さんを取らないで
最後に見る事になるお父さんの顔が、こんなに悲しいのは 嫌だよ
心の中に居る幼い頃の俺が、あっと言う間に侵食していく
嫌だ、行かないで
そう思うのは簡単なのに、口からは出てくれない
子どものように泣き喚きたい気持ちを、グッと押し殺す
そうだ、俺は
今までお父さんに憧れてきた
少しでも近付けるように、稽古も礼儀作法も頑張った
褒めてくれるお父さんが居たから
だからお母さんに歯向かう事も無く、口答えする事も無く、ひたすら両親の期待に応えてきた
でももうお父さんは居なくなるんだ
褒めてくれるお父さんはもう居ない
今まで充分我慢してきた、もう良いんじゃないのか?
姉さんも俺と同じ気持ちかもしれない
俺が言う事が、少しでも姉さんの為になるかもしれない
もう、良い子で居続けるのは、疲れた
食事が終わり、それぞれが席を立つ
沈黙を破る、最初の一歩
………駄目だ
口を開くも声へとなってくれない
なんで、もう良いじゃないか、本音を言おう
そんな事をしたら、裏切る事になる
お母さんは間違ってる
黙って頷いとけば良い
こんな事になっても、俺はお母さんに歯向かう事なんて できないのか
今までのお父さんへの憧れの気持ちはそんなものか
自分自身に失望し、呆れ、苦笑したくなる
「詩音」
低く安心する声に咄嗟に反応し振り返る
「ごめんな」
あの頃と同じように、大きくて優しい手が頭を撫でる
それがお父さんからの最後の言葉だった
ーー
家族4人での最後の晩食後、母親から連絡が入った
高校は水瀬学園以外に進学する事、という内容だった
父親が時々使用人と共に、俺の元へ行っていた事を知ったのだろう
水瀬学園の高等部へ進むと、俺は同じマンションに住み続ける事となり、父親がまた会いに来る可能性がある
そう判断したに違いない、納得はいく
言いたい事も言えない自分自身に呆れ、今まで通り母親の言う事に素直に従う事にした
ただ………
「………ってことになって、高校は水瀬学園以外に行くことになった」
昼休み、昼ご飯を食べ終わり 桜庭を連れて屋上へ来た
寒空の下でする話ではない気がするが、他の生徒に聞かれたくない
家柄の事、両親の離婚、父親の破門、そして高校の事
俺は間髪入れずに桜庭に全てを告げた
「………」
リアクションが無く不思議に思い横を見ると、約1ヶ月前に見た姉さんみたいに、桜庭の目からは沢山の涙が溢れ出していた
「ぇ、なっ、なんで泣くんだよ」
想像していた反応と丸っ切り違っていて、困惑する
「ぅ……詩音も、大変やったんやな…話して、くれて、ありがとうな、でも…」
嗚咽混じりでゆっくりと話し出す
「でも?」
「でも……高校違うの、嫌や…」
「そんな遠い所行くつもりないから、いつでも会えるだろ……?……な?」
「嫌や…」
泣いている子どもをあやすように慰めるが、桜庭は泣き止んでくれない
「なんで、そんなに………」
不意に、クラスメイトに言われた事が頭を過ぎる
[ じゃあ、あっちの片想い、か… ]
「……なぁ桜庭、違ったら…全然無視してくれて良いんだけど……………俺の事、好き?」
涙いっぱいの瞳がこちらを向く
「……………はは、バレちゃってたんやな」
「クラスの奴が、言ってて」
「うん…………うん、ごめんなぁ、気持ち悪いよな」
困ったように、無理をしているように、目に涙を溜めて、 笑いながら言う
「そんなこと」
「でも……詩音は俺の事嫌いやねんな」
「嫌いじゃ
「詩音は優しいからなぁ、でも、同情とかええねんで」
違う、気持ち悪くなんてない、嫌いじゃない、
同情なんてしてない
なんでお前はいつもいつも決め付けんだ
勝手に、話を進めんな
桜庭の両頬に両手を添え、顔を自分の方へと向かせる
「今まで、まとわりついて、ごめんな」
涙は瞬く間に、桜庭の目から零れ落ちた
俺は、何も言えなかった
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