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心が広い、なんてねえ
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その日の夜。女の子の父親が残業から帰宅して居間で晩酌を楽しんでいた。夜の11時。女の子は眠気で足取りがふらふらとしている中で、父親に紙袋を手渡した。
「おー。なんだ心広《みひろ》こんなもの持ってきて」
「今日遊んだ友達のママからもらったの。パパに渡してって。おやすみなさい」
心広と呼ばれた女の子は自室に戻っていく。その後ろ姿を、目元を柔らかにして微笑む父親は書斎に戻って紙袋を開いた。
中には、なんの変哲もないミニカーの、赤い玩具が入っていた。新品では無い、使い古されたそれを見た途端、父親は「ぎゃ」と怪物のような呻き声を上げた。
父親はそれを忌まわしげに見てから、急いで黒いポリ袋にそれを閉まった。鍵のかかるデスクの引き出しに投げ入れる。触れることさえ嫌々の様子で、表情は強ばっていた。何かを恐れるようなそれは、不気味なサントラと共にシーシャバーに落っこちた。
ここからの話は滑稽な虚構に過ぎない。
父親はそのミニカーを覚えていた。
かつて、己が専門学生の頃に虐めていた同級生が親からもらった大切なものだとポケットに常に持ち歩いていた代物だったからだ。
『見ているぞ』
どこからともなく、そんな枯れきって嗄れた声が天井から降ってきた。
心広の父親しか知らない記憶がまざまざと呼び起こされる。
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