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こうして俺は気づくのでしょう
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「そうですね。あなたの意見ももっともかと思います。ただ俺は」
言いかけて、やめようとした。
でも、でも、あなたの瞳が逃してはくれない。「答えろ」、無言の重力がつむじから重なった。
「善人の中にも悪人の心を持つ人はいます。善人の中身が全部純度100%の善だとは思わない。だからこそすき。善人は、まったくの善人になりきれないから惹かれました」
「そうなんですね」そう答えたきり。男はさして興味もなさそうに俺と目線を外した。
そのことが悲しくて、悲しくってかなわなくて。
「じゃあ」
1度は外した視線が俺を射抜く。貫かれた。その瞳は、鈍い光。瞳の奥の奥、さざめく波のような白吹雪。誰かの冬のような底冷えで、こうも言った。
「そうしたら、あなたはきっと善人にはなれませんね。だってご覧」
手を差し伸べられたのだと思った。だからその手を取ろうとして、空気を擦った。あ、れ。なんで。男は俺に掌を向けていた。それは、「さあ接吻をしなさい」とでもいうような|仏《フランス》の古めかしい貴族のような振る舞いだった。
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