アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
愛撫 -5-
-
次に気付いたときは、部屋の電気が消えていた。
いつの間にか眠って、時間も結構経ってしまったようだ。
掛け布団は行為の際に脇に追いやっていた記憶があるが、今は体の上にある。武上がかけてくれたのだろうか。
喉が結構渇いているし、何か飲もう。電気を付けなくても歩けるくらいには、外の明かりがカーテンから透けてくる。
「…………」
黒のタンクトップに黒のボクサー姿で、パソコンデスクの椅子にもたれ、腕を組み眠る武上の姿を確認できるほどにも。
櫻井は何も見なかったことにして、ひたひたと冷蔵庫まで歩きコップ一杯の水を飲んで、また床に就こうと来た道を静かに戻った。
「うぅっ!?」
その途中で櫻井は叫び飛び上がった。薄明かりの中で先程の姿勢のまま、武上が顔だけこちらに向けて櫻井を見ていた。
「あ……すいません、いやびっくりした……起こしちゃいましたね、やっぱり寝にくくないですか、そこ」
「お気遣いなく。おやすみなさい」
武上はまた先程の姿勢に戻り、目を閉じた。
「……はい、おやすみなさい」
そういってまた寝そべってはみたが、すぐに寝付けないほどには眼が冴えてしまっている。
「櫻井さん」
「ん?」
どうしたものかと思っていると、武上の方から声をかけてきた。
櫻井は首だけ動かして武上の方に向いた。こちらからだと武上は背中向きだが、頭を上げているのは分かる。
「一つ質問をしてもいいですか」
「はぁ、いいですけど」
「なぜ、あなたはpink motor poolのマネージャーに就かれたのでしょうか」
「え?」
何だか部屋の空気が変になった気がした。今このタイミングで、そんな質問が飛んでくるとは。
「そうですねぇ~、なぜって言われると……まだあいつらがインディーズだった頃に、一回ライブを見たんですよ」
櫻井はこの場を茶化すような答え方が出来ないかと考えながら、自分の過去を掘り出し始めた。
「そのときのライブは今よりずっと雑でへたくそだったんですけど……でもこう、直感ですごいなって思うようなことってあるじゃなですか?音楽っていうか、芸術?とかその分野って」
自分で聴いても頭の悪そうな答え方になっている、茶化すというよりは白けた気分だ。
「それで、もっとあいつらのことを広めていきたいと思って俺の方から名乗り出たんです。しばらくは3人でジリ貧の状態でやったりしたけど、まぁこうして食う寝るところには困らないようになったから、今のところは上々ですよ」
「そうでしたか。櫻井さんはpink motor poolの事務所契約と同時に入社したと記憶しておりますが」
「そうですね」
「芸能事務所との関わりを持たず、単独でアーティストの発掘作業をしていたということになるのでしょうか」
櫻井はギクリと体を強張らせた。さすがにこいつは面倒なところに目を付けてくる。
「それは……経緯を話すとややこしくなるんですが、脱サラになるんですかね、もとは別の所で働いてて。たださっきの流れがあって……突っ走っちゃったんですよね」
「そうでしたか」
とりあえずは納得してもらえた、のだろうか。
「黒宮の言う通り、行動力が突きぬけている」
「……?はぁ」
武上がこうした蛇足的な言動を付けるというのも、珍しいように感じた。
そこで櫻井はハッと気づいて、今まで寝転がりながら答えていたのに起き上がってしまった。
「武上さんはどうして黒宮さんのマネージャーを?」
ずっと背を向けていた武上が、少し椅子を回してこちらを向いた。
「申し訳ありませんが、そのことについて答えることは許されておりません」
それだけ言うと、武上はまた背中を向け寝る姿勢に入った。
「人に言わせた後でそれはズルいですね」
「そう思いお詫びの言葉を入れました」
「そりゃどうも」
しかし今の答えで十分と思い、櫻井は切り上げて目を閉じた。人間誰しも、探られたくない場所はあるわけだ。
櫻井は起きてから投げかける質問を考えながら、比較的いい気分で眠り直した。
翌日、本当に丸一日を使って体を徹底的に嬲られることも知らずに。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
20 / 88