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敗北 -12-
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漲り溢れだした力に縋るように、櫻井はヨロヨロとその場から足を動かし、ステージの方へ近づいていく。
身体が引っ張られるようなこの感覚は、昼に感じた感覚にも近いが、もっと、当然に、気分は高揚していた。
最前列に近い場所に行くのに、苦労は無かった。近づく自分の姿に、結局名前を聞かずじまいだった彼が気付いて、一瞬ニッと笑い前に出た。
木田の方とも視線が合ったが、彼は表情を変えず、ただマイクに向かって叫びながら、ギターを掻き鳴らしていた。
ノリ方が分からず、ただポカンとその場に立ち尽くしてステージを眺める自分に、なんとなく周りの視線が刺さるのも感じた。
しかし櫻井には、舞台の上にいる人間しか見えていなかった。
曲が終わりの雰囲気に差し掛かり、2人が見合わせて一瞬演奏が止まった時、木田がこちらを向いてニヤリと笑った。
櫻井はそれを見ながら、またポタリと涙を零していた。
木田はそれからドラムの方を向いて、ジャン!と合わせて曲を終わらせていた。
彼らはそれから4曲ほど続けて演奏し、最後に木田が「バイバーイ」と言って手を振った以外何も話さず、また袖に掃けていった。
また薄暗い客電が点いた瞬間、櫻井は頭よりも前に足を動かしていた。
「さっきのバンドに会わせてください、お願いします!」
ドリンクカウンターにいた金髪のキノコみたいな頭の女に迫ると、面倒臭そうに「関係者以外立ち入り禁止ですけど」と返された。
「外でもいいんで!昼に駅で会った男だって伝えてください!」
女は軽く舌打ちを打ってから、チケット受付の方に何か話しに行って、そこにいた男が『STUFF ONLY』と書かれたドアの向こうへ消えた。
櫻井がそちらへ向かうと扉が開いて、汗でビッショリとしている木田がニヤリと顔を覗かせた。
それを見た瞬間、櫻井は思いがけず顔を綻ばせながら、その扉をこじ開けていた。
「アンタらと仕事がしたい!!」
木田の手を握って、第一声、櫻井が発したのはその言葉だった。さすがにそれには木田も、木田の後ろにいたpmpの片割れの彼も、その場で硬直した。
しかし、木田は少しすると一言「……いいよ」とまたニヤリと笑った。
「待て待て待ておい!まずはメンバーの俺の意見を聞いてからにしろ!」
「あ?じゃあ、楽屋で話す?」
「っ〜……まぁいいけどよぉ、ほんっとテメェ……」
ブツクサ小言を言う片割れの彼に続き、木田がついて来いと手振りで示す。胸を膨らませながらも、櫻井は一礼してその敷居を跨いだ。
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