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敗北 -14-
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木田を送り届けたあと、櫻井はまっすぐ黒宮の元へ向かった。
喉の奥は未だ塩っぽく、瞼の赤い縁取りも消えはしない。しかし、頭は随分と冴え渡ってきた。
入る者を飲み込むような地下への入り口にも、ためらわず飛び込んでいける。
駐車場へ降りてからも、櫻井は勝手知ったる場所を行くほどの足取りで、カツカツと階段を昇り、広いリビングを通り抜けた。
いつもの扉の前に立つと、人がその向こうで動いている音は聞こえてくる。ドアをノックして、「どうぞ」と聞こえてから扉を開けた。
また今日も、ベッドに寝そべってテレビを眺めている黒宮。
音の主はそのテレビの中、櫻井の部屋で生活する、櫻井自身の生活音だった。
キッチンを見下ろすような視点で、パンツ一枚の自分が見切れていく。苦い思いで、しかし特に動揺することなく、櫻井はその映像に目を向けた。
「こんなのにももう何も感じないかな」
黒宮がぽつりと呟く。
「正直、もう驚けはしないですね」
そう答えた時に櫻井は気付いた。今日はこの部屋に、武上がいない。仕事の引き継ぎとやらをさっさと済ませたいというのに。
「座れば?」
「……えぇ」
櫻井はそう言われて、ベッドの端、黒宮の傍に腰掛けた。
「今日はもう泣き喚いてきたあと?」
「見ての通りです」
テレビから目を離さないままで櫻井は肩をすくめた。今しがた、まだ服を着ていない自分がカメラの枠内へと戻ってきたところだ。
黒宮は櫻井の頭を5本の指先で掴んで、目が合うようにグルリとその頭を回させた。
お互い何も言わずに顔を向けあった状態で、1人暮らしの男の生活が静かなBGMとなっている。
「吹っ切れたような顔しやがって」
指も視線も離さないまま、黒宮が口を開いた。
「そうですね……うん、腹括りました」
櫻井の答えのあとも、睨みあいのような時間がわずかに流れた。それを小さな頬笑みとともに切ったのは、黒宮の方だ。
「そんな顔して来るとは思わなかった」
黒宮はハーァとため息を吐くと、ベッドにドサリと仰向けになった。
「やっぱりお前、面白いわ」
櫻井はその言葉を、随分と久々に聞いたような気がした。
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