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第一章 勇者は魔王を倒したい#04
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張り詰めた静けさの中、いつもかーちゃんのように口煩い仲間の一人が口火を切る。
「……すみませんカイン。もう一度、もう一度だけ、読んで貰ってもいいですか」
「う、うん。貴様に分かるように説明すると、各国の魔王が一同に集ま」
「ストップそこです」
まごまごしくも読み上げるカインの言葉を仲間は遮る。
「その〝各国の魔王〟ってところですよ」
「まさかとは思うが、魔王ってのは一人じゃ、ない、のか?」
仲間の中で一番逞しい少年が慎重に言葉を紡ぐ。もう一人の寡黙な仲間は何も言わずただ黙り込むばかりだ。
「ま、まさか!」
カインは慌てて真新しい真っ白な紙を取り出すと急いで書き込み、紙飛行機にして飛ばす。
その様子を皆(みな)は息を呑んで見守った。
すると飛ばして1秒もたたずに〝ずさっ〟とお決まりの衝撃がカインの頭を襲い血吹雪が舞う。
だが今度は痛いとは言わなかった。いや痛みを感じる余裕がなかった。
「き、きた」
「な、なんて、書いてありますか?」
おそるおそる紙飛行機を開くとそこには……
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この世界に人間の王は一人しか存在しないのか?
違うな。国がある数だけ王もいる。
ならば魔族とて同じこと。
追伸
いい加減にしろ。暫く相手をしてやる暇はない。
by 魔王
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広げた紙に綴られた達筆な文字、四人の少年は眼を疑った。
「き、聞いてないぞ。そんな話し」
「て事はまさか、魔王一人倒しても、また別の魔王を倒しに行かないといけないのか?」
その絶望的な響きに全員息をのむ。
「マジかよ」
それぞれが困惑し、口をつぐむ。
それもそのはず、まさか誰が魔王が一人ではなく複数いると考えるだろうか。
カインが今まで読んできた本の中だって、魔王は必ず一人しかいなかったのだから。
そんな中、仲間の一人が重い口を開いた。
「……カイン、今まで総角之好(そうかくのよしみ)としてここまで付き合って来ましたが、それも今日までです」
「え⁉︎」
「そうだな。流石に今回ばかりは付き合ってられないぜ」
「そもそもなんの利点もない旅だ。何しろ我々の国では魔族とうまい事折り合いをつけている」
「そ、そんな~。じゃあなんで皆一年近くも付き合ってくれたんだよ~」
「貴方がどうしてもとしつこかったからです」
「まぁ俺暇だったし、暫くは付き合ってやってもいいかなぁと」
「大事(おおごと)にならない程度に付き合い、大事にならないうちに諦めさせ、連れ帰るつもりでいた」
「と言うわけで、私達はこれで」
「悪いなカイン」
「いずれ途中で〝帰らざる終えなくなる〟その時は素直に諦めて帰って来ることだ」
唖然とするカインを他所に仲間の一人がそうだと懐から何かを取り出した。
「カイン、これを持って行きなさい」
カインは手に握らされた重みのある革袋を見詰める。
「旅費です。貴方無一文でしょう。まぁ私が持たせなかったのですが……いいですか。無駄遣いは決してしないで下さいね」
「わかってるよ」
「それと、さすがに一日に三十通は相手に迷惑です。せめて一通くらいにしておきなさい」
「わかったってば」
「そうですか。ではこれで、ご武運を」
「な、なんだよそれ〜」
背を向け帰って行こうとする仲間に、カインは情けない声を出す。だが誰一人として振り返る事はない。
「ま、まじかよ」
呆然と仲間が去って行くのを見送り
「こ、この、薄情もの~~!!」
こうして旅立って一年後の朝に、一通の〝紙飛行機〟と己の自由奔放さのせいで、カインは旅の仲間を失ったのだ。
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