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第二章 魔王は赤ん坊を拾った事を語る#01
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一方その頃の魔王はと言うと。
「まったく、いったい何度余(よ)の頭にこれを突き刺せば気がすむんだ。あの小僧」
黒を貴重とした紺と紅色の軽装な成り、その衣服から剥き出しになっている逞しい身体は人とはまた違う浅黒さの肌を持ち、右顔の額(ひたい)から頬、右胸と指の先まで焼け焦げたような黒い痣。瞳は赤く迫力があり、短髪の黒髪からは角が二本覗く。
そうこの男こそカインが言う〝魔王〟であった。
魔王はそこらに散らばる紙飛行機を見て、溜め息をこぼす。
「おやおや、随分大変そうですねぇ北の魔王殿。会議中も次から次へと、まったく笑わせてくれる人間だ」
するとそこに現れたのは長く白い髪をおさげに結った若い男だ。
必要以上に露出度の高い白い衣服から覗く肌は、髪とは逆に褐色がよく、そしてまるで何かの術式のような入れ墨が全身に掘られている。
彼は魔王を見ると見下すような嫌な笑みを浮かべた。
「そうじゃ、あまりに目にあまるが故に会議中にも関わらず返事を書くのを許したがな、本来なら許されぬぞ」
それと一緒に現れたのは、その言葉使いとは裏腹に、血気盛んな少女であった。
頭の端と端をおたんごに結った燃え盛る炎のような真っ赤な髪に平らな腹を出した真っ赤な衣服、彼女の性格を表すように両の手の平から炎が時折吹き上がる。
「これは西と南の国のクローズ殿とサファメイ殿、先程は失礼した」
魔王は軽く頭を下げた。この二人は各国の魔王の中でも少々面倒な相手なのだ。二人とも魔王よりも歳上であるという事もあるがこの状況を見てわかる通りそれだけではない、特にサファメイはこの容姿で魔王より遥かに長い時を生き、南の魔王を名乗っている。
「ふん、わかっているなら良いがの」
「それにしても変わった人間ですね。自分の事を勇者だと言ってるとか?」
「ほんに笑わせる。勇者など何処のお伽噺じゃて。この世にそのような者必要せんと言うに、しかも魔力を持たぬ人間風情が我ら魔族を、ましてや魔王と呼ばれる位の者を倒そうなど片腹痛いわ」
「まぁまぁサファメイ殿、なんでも話を聞けばまだほんの子供だと言うじゃないですか、大方それっぽい本でも読んで憧れてしまったんでしょう。可愛いもんだ」
「そうは言うがの」
好き勝手言う二人を他所に魔王はさて、どのタイミングでこの場から離れるか機会を伺っていると、二人の背後から声がかかった。
「おぉ、こちらにいらしたか北の魔王殿」
薄暗い城内で燭台に灯る蝋燭の明かりがその姿を形取る。
「貴方は東の……」
「探しましたぞ。まさかお二方も一緒だったとは、申し訳ないが彼を少しお借りしたい、宜しいか?」
現れたのは身の丈ほどはある紫光する黒髪に目鼻立ちの整った黒衣の男。四大国の中で最も威厳があり、最も話の通じる。今回の国際会議、主催国の魔王だ。
彼は落ち着いた物腰で真紅の瞳を二人の魔王へ向ける。するとサファメイが不満げにふんと鼻を鳴らした。
「良いも何ももう用は済んだわ。わしも暇ではない。それではの」
「では僕もこの辺で、また後程」
去っていく二人の姿を見送って、魔王はほっと肩をおろす。
「……助かりました」
「いや何、私はただ声をかけたまで礼には及ばんさ。それにしても色々と大変そうだな」
東の魔王はそう言って床に散らばった白い紙を見る。
すると、ひらりと、また新しい紙飛行機が床に舞い降りた。
「……随分と大人しい登場だ。先程まで貴殿の頭に刺さって来たと言うのに」
「想像するに飛ばした者が、つまりは勇者とやらが今精神的にまいっているのでしょう。全くあの小僧は、今度は何をやらかしたんだか」
やれやれと言った様子でため息をつくその姿が東の魔王には引っかかった。
「まるで昔から知ったような口ぶりをなさる。それにこの紙飛行機はどうにも貴殿の魔力でここまで飛んでいるようだ。人間は魔力を持たぬし、何か訳でもあるなら伺っても宜しいか?」
「……話せば長くなるのだが」
魔王は辺りをちらりと伺い、東の魔王の耳に顔を寄せる。
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