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第二章 魔王は赤ん坊を拾った事を語る#02
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――その昔、
と言ってもおよそ十数年前の事だが。
余はその日、魔族の土地のニスリ森林を巡回がてら散歩していた。
すると遠くから確かに赤ん坊の泣く声が聞こえ、慌ててその声の主(ぬし)を探す。
駆け寄ると、やはりそこにいたのは赤ん坊だった。
それも人間の。
ニスリ森林は人間には毒でしかない邪気が充満している土地、ほおっておけばいずれ死んでしまう。だからこそ魔族の土地なのだ。
余は直ぐに赤ん坊に結界をかけ抱き上げた。すると、赤ん坊は泣き止み。くりっとした大きな青い瞳でこっちを不思議そうに見て、笑った。少なくともそう見えた。
無性に悲しくなった。
人間は弱い、特に赤ん坊は親がいなければ、育ててくれる者がいなければ死んでしまう。
いったいこの子の親はどうしたのか、何故このような場所に置き去りに、もしくはこの子共々死のうとこの森へ入ったのか。
ならば近くに遺体があるのでは?
いや邪気が全身に回るまでは時間がかかる。赤ん坊が生きていると言う事は、さして時間はたってはいまい。
「あーう!」
はっとして赤ん坊を見ると、何かを余に期待しているように瞳が輝いてみえた。
とにもかくにも、どうにかせねば。
しかし、我が城に連れ帰る訳には……。
人間にとって魔族の土地で生きるのは死と隣り合わせ、前例もない。
ならばと、余は人の姿に変わると、人間の土地へと赤ん坊を連れて足を踏み入れた。
そうしてようやくある教会を見付け、赤ん坊をそこに託したのだ。
それからと言うもの、その赤ん坊の様子をこっそり見に行くようになった。預けてはしまったが、拾った手前ほおっておく事も出来なかった。
直接会いはしなかったものの、元気にしているか確認しては帰り、そうやって成長を見守るだけのつもりでいたのだが……。
――その日、すっかり少年へと成長した赤ん坊は一人で森へと遊びに出た。
大きくなったとは言え、まだ六つしか年を重ねていない子供だというのに――。
「ど、どうしよう、迷っちゃったよ」
気付けば不気味な洞窟の中へと迷いこんでいた小僧は、おろおろと辺りを見回す。
すると、奥の方から誘うような声が聞こえてきたのだ。
『坊や、あぁ可愛い坊や、こっちにおいで』
まるで優しい人間の母親のような、そんな声。
「ど、何処?」
『こっち、こっちよ。さぁいらっしゃい』
「そっち、なの?」
「いかん! そこは!」
「え?」
次の瞬間、小僧は足を踏み外した。
薄暗い洞窟の中だ、足元がどうなっているかなど分かるはずもない。
ばしゃんと音をたて、底無しの暗く冷たい泉の奥底へと見る間に体が沈んでいく。
それを追い掛けるように飛び込んだ。
洞窟独特の暗い水の中へ潜りながら、沈んでいくその小さな身体に必死で手を伸ばす。
なんとか抱き寄せると、しっかりと抱え、空へと目指した。
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