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黒い傘 8
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「わぁ、雨が降ってる!」
「なんで嬉しそうなんだよ。おかしいな、手前数日は天気がいいって天気予報で言っていたのに。ちょっと遠いが、車まで走るか」
1階に降りてロビーに出ると、頭から肩がずぶ濡れの同僚が数人駆け込んできた。大粒の雨が急に降り出したんだと、悪態を吐いていた。
ドアの前に立てば、風はないものの大粒の雨がアスファルトを濃い黒に変えている。濡れた地面独特の匂いがツンと鼻を突いて、思わず眉をしかめた。
こんな日に限って、俺はいつもより遠くの駐車場に車をとめている。走ってもかなり濡れるだろう。一旦帰って着替えるか、商店街に出かけるのをやめるかと考えていたが。
ミナギは嬉しそうだ。かなり嬉しそうだ。ニコニコと、黒くない笑顔を俺に向けて左手を上げた。
突き出されたのは、黒い傘。そうか、この傘は仕込み傘のため普通の傘よりも大きいが、雨傘として使える。これを使えというのか。
「相合傘だね。藤代さん、そっち濡れてない?」
「茶化すな。お前の方が濡れる、雨が強くなる前に急ぐぞ」
バンッ!と傘を開いて掲げたミナギに引っ張られ、肩を寄せ合いながら車に向かう。あ、ヤバい。大粒の雨のせいで地面で跳ね返り足がふくらはぎまで濡れた。
自分より背が高く体が大きい俺の心配をしながら、さりげなく傘を向けてくる。飼い主だからって気を遣うな。
俺は、そんなからかいながらも真面目なミナギの肩を抱いて走った。細い肩。走れば細く滑らかな漆黒の髪がフワッと揺れて、肩を抱く俺の手をくすぐる。
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