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ハッピーバースデー 1
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僕はこの世界に存在しない。
だけど、生きている。僕が僕として生きているのを、知っている人がいる。他の人となにも変わらない、1人の人間。
ついこの前まで僕は犬だった。警察のために命がけでお手伝いをする、従順な飼い犬。
誕生日に、大事な飼い主も本当の家族も皆失った。でも代わりに、新しい飼い主と巡り合った。運命の人だと思ったよ。
藤代柚樹さんは警察の下っ端だったけど、僕がちょっとした手助けをしたおかげで課長にまで昇格して。恩を売って家にまで転がり込んでみた。
新しい飼い主として彼と暮らすようになって、以前よりも忙しくないし危険な仕事もないのが退屈だった。
彼はとにかく優しいから。僕の境遇を知って、子供だからと同情してくれている。でもさ、僕には普通の暮らしがわからないから。
立てこもっているテロリストを1人でやっつけに行ったり、あまり時間が残されていない時限爆弾の解除をしたり。それから、毒が充満している部屋に侵入してデータをコピーするとか。
そんな、ドキドキハラハラな仕事がないと。僕の存在に価値なんてない。
彼が仕事に行っている間、家で待って掃除や洗濯をしたり。買い物に行って晩御飯と数日分の作り置きを作ったり。彼の好き嫌いに悩んだり。
僕は家政婦じゃないんだよ。僕がそんなことをしたって、何がいいの?そう思っていたのに。
帰ってきたら彼はうんと褒めてくれた。綺麗になった部屋を見て「何でもできるんだな」と、僕の頭を撫でてくれた。
嫌じゃなかった。前の飼い主と暮らしていても家事を引き受けて、最初は褒められたけど。彼は、僕が仕事じゃない手伝いをするたびに褒めてくれた。
初めて僕の手料理を食べた時、顔をくしゃくしゃにして「すごく美味い」って笑ってた。
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