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平凡なオメガの大学生ですが、この度『自称女嫌い』のインキュバスを拾いました。
呆れるほどの、お人好し 1
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「なぁなぁ、幸大。お前、また拾ったのか?」
目の前の席に腰掛ける男が、こちらを見て呆れたような笑みを浮かべる。だから、俺は思いきり顔をしかめた。
……拾った。
(俺、犬も猫も拾った憶えないんだけど……)
記憶をたどっても、ここ最近犬猫を拾った覚えはない。
「|政利《まさとし》、言っちゃあ悪いが、最近なにかを拾った覚えはない」
目の前のハンバーグ定食をつまみつつ、俺の大親友である|三原《みはら》 政利に視線を向けた。
奴は人のよさそうな顔に、なんとも言えない微妙そうな表情を浮かべた。
「いやいや、拾ってるでしょ。この間も、困ってる子供を助けて懐かれていたし」
「……それは、拾っているのとは少し違うだろ」
ご飯を咀嚼して、呑み込んで。俺は端的にそう言葉を返す。そうすれば、政利はなんだか気まずそうに頬を掻いた。
俺と政利の付き合いは長い。小学校低学年の頃からだから、もう十年以上になる。……こいつだけが、俺が必死に隠している秘密を知っている。
(というか、同類だからなんでも話せるっていうのも、あるんだよな……)
そんなことを思っていれば、政利が箸をトレーの上に置いた。その後、水を一口飲んで「幸大」と声をかけてくる。その声は、とても真剣だ。自然と、背筋を正してしまう。
「お前のそのお人好しは、確かに美徳かもな」
「……別に、そんなつもりは」
視線を逸らす。お人好しっていう言葉は、嫌いだ。だって、人として当然のことをしておいて、そう言われるんだから。
「いや、俺からしたらお人好しだよ、幸大は」
笑みを作って、政利がそう言い切った。……が、すぐに表情を険しいものに変える。なんとなく、嫌な予感がする。
「だけどさ、俺らにとってそれは命とりなわけ。……わかる?」
真剣な眼差しで、そう告げてくる。……確かに、それはそうなんだけれどさ。
「わかってるよ。ただ、困っている人を見捨てられないっていうか……」
キャベツを口に運びつつ、俺は眉を下げてそう言葉を返した。
(こういうところは、母さん譲りなのかもな)
ぼうっとしつつ、そう思う。母さんも、親切が命取りになったんだ。……親切にしなきゃ、俺を身籠ることもなかったんだ。
(母さんは、俺がいて幸せだって言ってた。……だけど、俺がいるから人生楽しめなかったんだろうな)
俺を身籠ったから、若くして働いてばかりの毎日になった。それでも、母さんはずっと俺に苦労しているような素振りは見せなくて。……頼れる人なんていなかっただろうに。
「……もしかして、母親のこと思い出してる?」
政利が淡々とそう問いかけてくる。……俺は、静かに頷いた。
「確かに、幸大の母さんもお前にそっくりだったな。……お人好しが過ぎるっていうか」
「……そうだよ。だから、変な男に付け込まれたんだ」
ぽつりとそう言葉を零してしまった。変な男に付け込まれて、俺を身籠って捨てられて。波乱万丈な人生だっただろうに。
……最期まで、笑ってたんだ。
「でもな、母さんのほうが俺よりもずっと強いんだよ。……俺は、母さんみたいな境遇になったら生きていける自信がない」
「そうかぁ?」
政利が怪訝そうな声を上げて、俺を見つめてくる。
「幸大は、どんな環境でも生きていけそうだけれどな」
「……なんだよ、それ」
「いや、ただの勘」
そんな勘、あてになるわけがないだろうに。
「ま、気を付けるに越したことはないんだよ。俺らは、男だけどオメガなんだから」
声を潜めて、政利がそう言った。そのため、俺は頷いた。オメガである以上、俺たちは――警戒し続けて、生きていかなくちゃならない。それは、ずっと小さなころから、知っている。
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