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再会
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裏社会で生き始めて10年、孤児になって13年、兄を探して13年。
兄かも知れない人の、居場所をやっと突き止めた。
表の世界に出て来るのは、ずいぶんと久しぶりだ。
ボロボロのマントを体に巻きつけ、フードを深くかぶり、地図を手に賑やかな通りを進んだ。
白夜叉と呼ばれた男。
其れしか情報は掴めていないが、俺の記憶の兄と確かに髪色も髪質も目の色も同じだったらしいのだ。
…同じ攘夷戦争に参加しながら、俺は白夜叉を見ることはなかった。
「…白夜叉…」
住所の先には、大きな「万事屋銀ちゃん」という看板が雨ざらしになっていた。
二階への階段をのぼり、インターホンを押した。
「はーい!」
元気な少年の声が聞こえ、ガラリと戸が開く。
その少年は俺の探して居る人物ではなさそうだ。
「依頼ですか?」
「…用事があって、来ました」
「あー…すいません、今うちの社長大工仕事の依頼で手伝いに行ってて居ないんですよ。どうしますか?」
「…ここに、白髪で赤い目をした男の人がいると聞いて…本当ですか?」
「それ銀ちゃんのことネ!」
少女がそう言いながら出てきた。
「お前銀ちゃんに何の用アル?」
「ちょっと神楽ちゃん、お客さんにお前って言っちゃダメでしょ」
「だってこいつちっちゃいネ、多分ガキアル」
…。
短い成長期のせいで確かに小さいが、こんな幼いであろう少女にガキ扱いされるとは…。
「それでもダメ!あー、とりあえず上がって待ちますか?」
こく、と頷くと少年は扉を大きく開けた。
案内されたソファに座る。
隣に有るデスクを中心に積まれている新聞やジャンプを眺めていると、少年が頭をかいた。
「すいません、銀さんが好きで溜め込んでるんです。何度言っても片付けちゃダメだと言われて…」
「別に大丈夫、です」
「僕は志村新八、ここの従業員です」
「私は神楽ネ」
従業員だったのか、まだ子供なのに偉い…。
「あのー…お名前尋ねても良いですか?」
「…空です」
何と言おうか迷ったが、面倒だしそのままいつもの仮名を名乗った。
「空さんですね。うちには、どうして?」
「赤い目をした銀髪の人を探していたらたまたまここに其れらしい人がいると聞いたからです。もし俺の探してる人と違えば、そのまま依頼したいと思って来ました」
「あの…変なこと、聞いても良いですか?」
新八が、きゅっと手を握りしめて、目を此方に向けた。
「銀さんを、どうするつもりですか?」
え?
「どうする、とは?」
「…刀、持ってるじゃないですか、空さん。廃刀令が出てるのに…」
マントの上からでも刀の形ははっきり見える。
そうか、表の世界では廃刀令か。
「お前、銀ちゃん切るつもりアルか!?だったら私許さないヨ‼」
ソファから立ち上がった神楽を見上げ、俺は刀に手をかけた。
「ちょ、ちょっと空さん!?」
鞘ごと刀を外すと、其れを机のうえにおいた。
「攻撃するつもりはない」
「綺麗な刀ネ‼」
神楽が俺の愛刀…紅紫煙…に触れた。
「触るな!」
咄嗟に口をついて出てしまった言葉に自分で驚き、少し顔を下げた。
「…すいません」
「いえいえ、勝手に触ろうとしたのは僕等ですから。すいません。ほら、神楽ちゃん、なんて言うの?」
「アッチョンブリケ!」
「違うだろ!ごめんなさいだろ!?」
新八がつっこんで、苦笑いをしながらまた俺の方を向いた。
「すいません。銀さん、遅いですね…」
「あの、お二人に依頼しても良いですか?」
「?何です?」
「何アルか?」
酢コンブを貪っていた神楽もこちらを向いた。
「お二人とここの社長の、出会いやなぜ働いているか知りたいのです」
「たでぇまー」
がらがらと戸を開いて、白髪頭がもさもさと中へ入って来た。
なるほど、確かに俺の記憶と一致する。
「もー、銀さん遅かったじゃないですか!お客さん待ってますよ!」
「あぁ?客ぅ?知らねーよ、銀さん疲れてんのよ察しろメガネのくせによぉ」
「メガネ関係ないじゃないですか!いいから、ほら、お客さんですよ!」
新八の言葉で、「銀時」の視線がこちらへ向く。
「…!お前…」
つかつか、と大股で俺に近付き、思い切り肩を掴まれた。
痛かったけれど、緊迫した雰囲気で言うことはできなかった。
「その刀…。空心と何処であった?空心は今まだ無事か?」
「…」
俺はしばらく黙っていた。
別に焦らそうとか考えていたわけではない。
まだ俺のことをこんなにも…たった刀一本で…思い出し、心配してくれる人がいることに幸せを感じていたのだ。
「おい!何か言え!お前、空心をどうした!?」
「ちょ、ちょっと銀さん落ち着いてください!」
新八が止めにはいるが、体格の違いから結局弾かれてしまう。
「…お久しぶりです」
手を伸ばし、フードを取った。
ぱさ、と軽い音がして、銀に輝く銀髪と、左右色の違う目が光にさらされる。
「銀時さん」
「お、前…空心か…?」
「…はい。空心です」
銀時の手が俺に伸び、大切なもののように抱きしめられた。
そっと撫でられ俺の肩に顔をうずめ…。
「よかった…お前…生きてたんだな…」
「…随分久々になってしまいすいません」
銀時の背中に手をやり、そっと抱きしめた。
「空心…?空さんじゃ…」
「銀ちゃん、そいつ誰ネ?」
新八と神楽の言葉に答えるべく、俺はとりあえず新八の方を向いた。
「ごめんなさい、本名はややこしいので偽名を名乗りました。本名は雪楪空心、偽名は白木空と申します」
「空心さん、ですか?」
「空と呼んでください」
俺がそう言ったところで、銀時にぐっと引かれた。
「銀時さん?」
「お前…ボロボロじゃねぇか…今までなにして…?雪楪さんたちと居たんじゃ…」
「…ごめんなさい、その話は今度にして欲しいんです」
…言えない。
俺を何とか安全にするために自分を犠牲にしてくれた銀時に、こんなこと…言えない。
「銀ちゃんてば、そいつ、誰アルか?ねぇ、銀ちゃん」
「…こいつは…空心は…俺の、実の弟だ」
「お、弟ぉ!?」
「そういえば銀ちゃんと同じ髪の毛の色ネ!」
驚く新八の隣で、妙に納得したように神楽が頷いた。
「でも、今まであんた弟のことなんて一度も話してくれなかったじゃないですか!」
「いやぁ、情報探してはいたんだが、驚くほど何も出てこなくてなぁ…銀さんも正直、空心がまだ生きてるかどうか分からなかったんだわ」
ぽんっと大きな手が頭の上におかれた。
そのままわしゃわしゃとかき回される。
「おかえり、空心」
「…俺は初めてここに来るんだから、お帰りは合わないよ…銀時さん」
「いや、俺の元におかえり」
「…銀時…」
「新八、いちご牛乳いれてやってくれ」
銀時が俺を椅子に座らせながら言った。
「えっ、いちご牛乳でいいんですか?」
「いいんだよ」
どっかりとその隣に座り、銀時は横目に俺を見て微笑んだ。
…あぁ、久々の安心感だ。
「はい、いちご牛乳です」
新八に、コップにいれた可愛い色の液体を渡された。
少し飲むと、其れはとても甘くて昔食べたアイスのような味がした。
「美味いだろ?」
「…うん、美味しい」
「あのー、空さんって今いくつなんですか?」
「16、です」
「えっ…僕と一緒ですか?」
「新八より全然がきっぽいアルな!良かったな新八!」
「何がだよ!ていうか失礼だよそれ!」
「…銀時さんの周りは、いつも明るくて楽しそう、ですね…」
願わくば、俺もこんなところで育ちたかった…。
「あー…その、なんだ…空心もここに住め」
「…え」
「銀さん、神楽ちゃんもいるのに大丈夫ですか?」
「空、一緒に住むアルか?」
「…俺は…きっと迷惑にしかならないから」
まだ残ったままのいちご牛乳を机に置き、紅紫煙を腰に刺し直し、お暇しようと立ち上がった。
もう外は日が陰ってきている。
そろそろ夕食の時間だろう。
…そして、ここからが俺たちの時間だ。
「空心、今何処に住んでるんだ?今度は俺が会いに行く」
…その申し出はとてもありがたくて…けれどとても迷惑だった。
「…言えません」
「どうしてだよ、空心…」
「また会いにきます」
深くお辞儀をして、去ろうとした、その時。
銀時に思い切り腰を抱き締められ、進むことは叶わなかった。
「待てよ…空心…」
「…何ですか」
「今はもうあの時とは違うんだ…離れなきゃいけない理由、ないだろ…?それとも、俺より選ぶ価値のある家族でもできたのか…?」
「…分かってるでしょう、俺の家族は貴方だけです。今、銀時さんには家族代わりがいる。新八くんも、神楽さんも居るんです。俺がいなくたって、…むしろ今更戻ってきたところで邪魔にしかなりません」
たとえ自分とは違う明るい世界を歩んでいても、俺とは正反対の暖かい家族を持っていても、銀時は大切な兄なのだから。
「…また会いに来ます、だから離してください」
「なぁ新八、神楽」
俺の話を聞いていたはずなのに、銀時は俺の話を無視して新八と神楽に話しかけた。
「お前ら、家族が増えるのは嫌か?」
「神楽ちゃんがアンタと2人で暮らしてるよりはいいんじゃないですか」
「私全然構わないアル!」
「…空心、ここに住むつもりはないか?お前は俺の家族だ、邪魔になんかなったりしない」
「…迷惑を…かけます。敵を作るような生き方をしてないとはとても言えません…だから」
「うちは万事屋ネ!其れくらいよくあることアル!ね、銀ちゃん!」
「あぁ、そういう依頼が来ることもあるな」
銀時はもう一度俺に座るよう促し、俺の頭を撫でた。
「うちは金はねぇが、其れでも良いならここに居ろ…空心」
…金ならある、そう言いかけてやめた。
真っ当な方法で稼いだ金ではないのだから、表の世界で真面目に働いて貧乏でも生活を営んで居る銀時達に渡すべきお金ではないような気がした。
「…銀時さん…」
「な、空心…」
一緒に住もう、と銀時がもう一度言う。
…本当に其れでいいのかとアレコレと思いを巡らしたけれど、自分の本音は至極単純で。
「…うん」
一緒に、住みたいんだ。
…例え迷惑をかけたとしても…。
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