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✽日本一高い建物から見たいもの✽ 6
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「青も赤も黒も、全部共に見よう。何度でも見られる」
「はい...っ、」
近衛の言葉にじんわり涙が滲み、短い言葉でそう返事をするのが精一杯だった。
近衛は何時だって私の欲しい言葉を下さる。ああ、もう離れず側に居られるのだなと実感が湧き、見なければ勿体ないと思うていた富士の山よりも近衛を見ていたくなった。四季が移ろってもまた共に見られる。近衛と同じ景色を来年も再来年もその先もずっとずっと。
「上から見ると凌雲閣は八角形なんだそうだ。見てくれるか?浅野に頼んだらそれどころじゃないと断られてな、」
暫し並んで景色を眺めていたが、近衛がそう頼むと、浅野は真に自由奔放な御方だなと那由多は笑う。吉原の覗き見に夢中であったであろうその姿を想像し、笑いながら周りをぐるりと見回せば確かに囲うている欄干丈は八角形。なれど下はどうなのだろうと欄干丈に手を掛け真下を覗いた途端その笑みは消え、直ぐ様右手を探らせ近衛の背広を掴んだ。
「か、角はありますが、...八角形かは分かりませぬ。...あ、あまりに高うて、こ、これ以上は、恐ろしゅうて、顔を出せませぬ」
「ははっ、では見えぬ目で私は助かったな!」
「......はぁ、....動悸が致します。こんなに高かったのですね、」
足が竦む高さに思わず一歩二歩下がり胸を押さえた。景色の一部と捉えていた時は感じなかったのに、下に見えている町並みのあまりの小ささが恐しゅう思えた。
そんな私に気付いたのか「そろそろ下りるか」と近衛に言われ、私は迷わず頷く。なれど勿体ないからもう一度と、「此処に居て下さいませ」と近衛にお願いし、私は数歩下がった。
「ふふ、これが一番絶景です!」
富士の山を背にした近衛を見て那由多はにっこり微笑んだ。端からこうすれば良かった。然すれば近衛と富士の山をいっぺんに楽しめる故。
「おぶさって行くか?」
階段付近まで行くと近衛にそう言われ、これは戯れているのだろうと笑う。
「上りで言うて下さったら、遠慮無くおぶって頂きましたのに」
「ははっ、上りは流石にきつい、」
「ふふふふふ、あ!エレベーターとはどの様な物なのですか?」
赤と黄色の2台あったエレベーターはもう動いておらず、どんな物だったかと問えば近衛は何故か渋い顔をした。
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