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✽溜色と満月✽ 8
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「酔うてしまう前に私からも皆様に一杯宜しいですか、」
言うて那由多はワインボトルを手に皆のグラスにワインを注いでいく。その様子を見ながら近衛は笑みを深めた。
ワインは初めてだと言うていたが、酌をする姿は実に惚れ惚れする。注いでから此方に寄越した流し目や小さな会釈が心を擽り、引き寄せたい衝動に駆られるもぐっと堪えた。そんな事をすればたちまちトシに叱られるであろう。
武雄は直視出来ずに生唾を飲み下す。ただ酒を注いでくれているだけなのに、妙に色っぽい。そんな事を思ったら、途端に先に見た那由多の痴態が頭を駆け巡り、注いで貰って直ぐにグッとワインを飲み込んだ。
「私は少しで結構ですよ!たくさん飲んだらコロッといってしまいます!」
「ふふ、承知致しました。」
手を大きく振りそう言うたトシに那由多は笑うてワインを注ぐ。感謝の気持ちを表すのなら並々にしてしまいたいくらいだ。
トシは私が飲み込む気持ちを近衛に代弁してくれたりと、何時も気にかけてくれる。強い口調のこの優しさに何れ程助けられているか。
「少しだけ、受けて下さいますか?」
「......はい、」
みきはもう顔が真っ赤だ。那由多がそう尋ねると、みきは両手でグラスを持ち少し掲げて、はぁ〜とうっとり息を吐く。
皆そうして手に持ち注いでもらったが、それがマナーに反すると近衛はもちろん分かっている。なれど敢えて言わなかった。家族の集いとして皆に楽しんで欲しかったからだ。
私も那由多も、家族団欒とは縁遠い。雇用の関係であれ、皆に家族の様に気安く接してもらいたかった。
「私も何時か、那由多様の様な方と夫婦になりたいです!!」
みきにバッと腕を掴まれ驚いたものの、那由多は次の瞬間にはくすくすと笑うて近衛を見た。
「私にも男の色気が出てきたのでしょうか?女性にこの様な事を言われるとドキッと致します」
それを聞いて近衛は声を上げて笑うたが、武雄はむっつりした顔でまたワインを飲んだ。妙な色気に当てられてるのが自分だけじゃないと分かり、ホッとしたような悶々とする様な微妙な心持ちだ。
「あまりからかわずにいて差し上げて下さいまし!酔いから覚めたら泣きますよ!」
トシに諌められ「ふふふ、失礼致しました」と頭を下げるとみきを真っ直ぐ見つめた。
「きっと何時か良い方に巡り会えます。素晴らしい方に」
恋い慕う方と一緒になる事はとても難しい事だと今までを振り返りそう思う。田中や加藤の気持ちには応えられなかった。近衛の事とてそう、一度は諦めようとしたし、何も言わずに姿を消した。なれど出逢えた事は天運と仰って下さった近衛の言葉を信じたい。そういうた物で繋がっているのならば、離れたとてきっと何時か巡り会える。
故にみきにも、そういうた縁が何時か訪れるだろう。
そんな事を思うた那由多は、近衛の隣に座ると自然と手を取った。
私はもうこの手を離さない。ずっとお側に。それだけが私の唯一つの望みだから。
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