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✽縦皺と横皺✽ 10
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「近衛次官、次官のお宅の使いだという方が見えているのですが」
「家の使い?」と首を捻るも、家忠あたりが何か持たせてくれたかと近衛はあまり考えず席を立った。
逢えるだろうかと敷地内を覗く様にそわそわしている那由多は、遠くに近衛の姿を認めると嬉しさのあまり顔を綻ばせた。近衛は忙しくしているだろうし、佐之助との事があった故、姿を見るまではやはり逢えるか不安であった。
(...あれは......那由多か?)
朧げに目に映る者の姿が那由多に見えるが、まさかなと思う。なれど自然と足早になり、近くで見るとやはり那由多で、久方振りに見るその姿に喜びを噛み締めた。それにも増して私を見た時の那由多の嬉しそうな、顔一杯の笑みに愛しさが募る。
「来てくれたのか!遠かっただろう。トシも済まない、」
少しお痩せになったなと思うも、顔を見られただけでほっと安堵し、肩から腕を確かめる様に触る近衛の手に手を重ねたくなるも、那由多はぐっと堪えた。
「逢いとうて情けのない顔をしておりましたら、トシさんが連れて来て下さいました」
冗談めかして真の事を告げると近衛は「ははっ」と笑うて居られて、その顔を見られただけで来て良かったと思えた。
「冬衣を少し持って参りました。お忙しいでしょうから、他にも何か入り用の物があればどこかで揃えて参りますよ?」
「いや、これだけで十分だ。助かる。この服、やはり良う似合うてる」
「ふふ、ありがとうございます」
恥をかかせてはいけないと、那由多は先に近衛が誂えてくれた洋装を着て、纏めた髪をキャスケットの中に隠した。
これなら陰間くさくは見えまいと思うての事だったが、着慣れぬ洋装はやはり少しむず痒い。
「トシも疲れたろう。...悪いが終わるまでもう少しかかるでな、この先に喫茶店がある故、そこで待ってて貰えるか?」
「ええ、ええ、御心配なさらず。今日の宿を探したら那由多様とそちらでお待ち致しますよ」
「ああ、宿は探さなくて良い。すまんがもう行く。後でな」
「はい」
後での近衛の言葉が何となしに擽ったかった。見送る事はあれど、待ち合わせなどはしたことが無く、直ぐ後の約束が嬉しゅうてならない。近衛に撫でられた肩から腕が、ほんのり暖かい気がする。
近衛が建物の中に入った所で「参りましょうか」とトシは那由多にそう声を掛け、これで御二人とも御元気になるだろうとトシは胸を撫で下ろした。
「まだ時間がありそうですから、少し見て回りましょう」
そう言うたトシを案じ、「...なれどお疲れでは?」と那由多はその提案に躊躇いをみせる。
「明日には帰るんですから見なければ後悔しますよ!さぁさぁ参りましょう」
トシは真に御元気だ。ならばお言葉に甘え、広島の街を見て回ろうと那由多はトシと共に観光へ向かった。
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