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✽紅椿と懺悔✽ 7
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「...私の手を取った事を後悔しているか?」
近しい距離で見つめられるも、近衛の姿は涙で朧げだった。私はその問いに直ぐ様首を振る。
お側に居たい、それだけが私の唯一の望みだ。故に私は、誰を犠牲にしても近衛の事だけは諦められない。足掻いて足掻いてあんなにぼろぼろに痛んでも、忘れ得ぬ想いであったから。
「...っ、...篤忠様は、悔いて居られませぬか、こんなっ、浅ましい者をお側に置いてっ、」
「いや、私は出逢うてから今の今まで、那由多を選んだ事を悔いたことはない。だから、この痛みも私に分けろ。一人で背負い込むな」
私は愚かだ。幾度となく近衛の心を疑う様に不安になって。痛みを分ける事、田中の時、佐之助の時、そして此度も。何時だって近衛はこうやって私の痛みを貰ってくれる。
近衛の言葉にわあっと泣き出した那由多は、暫く近衛の胸の中で泣いていた。
落ち着きを取り戻して来た頃、紅椿を見て那由多は再び話し始めた。
「...紅椿は、さゑ様が最もお好きだった花なんです。加藤様が、紅椿はさゑ様に似てるとおっしゃられたからと。ですから、紅椿を見ると、さゑ様を思い出して、切なかったのです」
「...そうだったのか。嫌なら庭の椿を切っても構わんぞ」
「いえ。さゑ様には感謝してもしきれません。あの方の悲しみも勇気も、忘れない様に、どうか椿はあのままに」
見れば苦しい気持ちになると分かっている。なれどさゑの事を過去の事と忘れたくはなかった。
「探してみるか?新聞広告に出すなり手はいくらでもある。会いたいのだろう?」
その言葉に私は暫し考えた。会いたい気持ちはあるが、素直に会いたいと言えなかった。この屋敷を出たのが何時なのか分からぬが、まだ一年以内な事は間違いない。さゑとて今は一杯一杯であろう。
私は忘れない。この罪も感謝の気持ちも。なれどさゑには私の事など忘れて欲しい。辛い気持ちも含めて。
「ありがとうございます。なれど、まだ、お会いする勇気がないと、ここに来て分かりました。故に、今は結構です」
「そうか。会いたいと思うた時に言えば良い。何時でも手を貸す故」
そう言うて手を差し出してくれた近衛のその手に手を重ねた。暖かい手から近衛の優しさが伝わってくる様で、胸の痛みが和らいでいく。
此処は私を囲う檻で、一番辛い場所だった。それでも、さゑの様な方に出会えた。紅椿の様に凛とした方。花言葉と同じ様に、控えめな愛と気取らない美しさを持った方だった。
「いつか、お会いしたいです」
紅椿を見つめ、素直にそう口にした。何時かまた会いたい。今度は加藤抜きで。
そんな事を思い、懐かしさから近衛の手の平に文字をなぞった。
「私もだ。那由多を愛してる。これは其方から貰った二通目の恋文だな!」
手の平をひらひらさせて言うた近衛は、文字も何も無い自分の手の平を見つめた後、その手をぎゅっと握った。
了
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