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✽古よりの教え✽ 7
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一度高まった身体は緩い刺激でも容易く昇った。
近衛が子種を吐き出す頃には那由多はぐったりで、すっかり酔いも覚めていた。
息を整えていると、抱き止め背をあやすように近衛が擦ってくれている。それがあまりにも心地よくてうとうとしだしたが、近衛が話し始めると那由多はぱちっと目を開けた。
「韓非子を読む前に、孔子の論語を読んでみると良い。学問の基礎と言われていたくらい、学ぶものが多い故」
「...孔子?」
「ああ。中国の思想家だ。孔子の教えの根本にあるのは人を愛することでな、子は親に尽くし、弟は兄に尽くし、私利私欲をおさえ、他人に対して思いやりを持ち、自分の心に素直に、そして人を欺かない事。これを基本としてるんだ」
「素晴らしい考えですね」
「ああ。私もそうありたいと常々思う。...近衛家ではな、この論語と同時に韓非子も学ばされるんだ。韓非はな、徹底的に権力の扱い方とその保持について説いていて、非違の行いを礼による徳化で矯正するのではなく、法によって抑えるべきだと主張してるんだ」
「孔子と韓非はまるで違う考え方なのですね」
「そうなんだ。世が孔子の思想を評価する中、近衛家は韓非の思想に重きを置いていてな、己以外の誰も信じるなと教えられる」
難しいお家柄だ。近衛が家族から距離を置いているのも知っている故、なんと返せば良いのか私は言葉を見つけられずにいた。
「そんな考え方が嫌いでな、幼い頃は仁と礼をもってすれば世の中は良くなると思うていた。父上のお考えは間違っていると。なれどな、大人になり世を広く見ると分かった、綺麗事だけではまかり通らぬ事もあるとな。どう生きるのが正しいのか、時折分からなくなる」
近衛の言葉が耳に痛かった。色街出の私は誠実に生きる事からかけ離れた生き方をしてきた。仮初めとて男を欺き、それで金を得てきた。それにこと近衛に関して言えば、私は欲塗れだ。仁とは程遠い。だからこそ生真面目で実直な近衛に惹かれたのやも知れない。私にはないものをお持ちだったから。
「...私は、難しい事は分かりませぬが、教えられた事で無駄になった事は一つもなかったと思うておりまする。どれか一つと決めるのではなく、知識として持ち合わせ、其々の良い所だけ取れば宜しいのではないでしょうか。...韓非子を重用なされば弥子瑕と同じ様な私は排除されてしまいますし、孔子を重用されれば篤忠様は欲を抑えてしまいます。私は、どちらも嫌です...」
「はははっ、那由多は素直だ!そうだな!どちらも良い所を掻い摘べば良いのだな!」
近衛家の教えだからか、韓非子を悪視していたと気付かされた。読んで共感を得るとこの血のせいかと思うことが度々あったが、そうではない。
那由多の言うた通り、学びに無駄な事なんて一つもないのだ。
「...もう眠とうなってしまいました」
「寝て良い」と促す様に背を擦ると、直ぐにスースー寝息が聞こえてきて近衛は那由多の頭に唇を落とした。
「其方が私の師だな」
了
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