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12月のはじめ、珍しくKが日中に仕事へ行った日のことである。大悟は学校で期末試験を終えた後、ひとりでハナムラコーポレーションにやってきた。着ていたダウンジャケットをハンガーにかけ、自分の机のパソコンの電源を入れて席に座ると、マキがおはようと言ってやってきた。そのまま他愛のない話をしているうちに、話題はクリスマスのことになった。
「へー、カナカナのご両親はクリスマス生まれなんだ」
「うん。母さんが24日、父さんが25日。なのに、俺は5月1日で仲間外れだって、よく言ってたっけ」
記念日関係全般に疎い大悟であるが、さすがにクリスマスは覚えていた。事件が起きるまでは、この二日間は特別な日になっていたから。
「そっか、クリスマスは大切な日なんだね。それなのにごめんね、サカさん、クリスマスは毎年オールナイトで会合なんだよぉ」
Kがいないこともあってか、マキは大悟の頭をよしよしと撫でてくれた。
「そうなの?」
「裏の会合なんだけどさ、恒例行事になっててさ。てか、サカさんから何も聞いてないの?」
マキの問いかけにこくりと頷く大悟。
「サカさん、会合のこと忘れてるよ。今年はカナカナとクリスマス過ごすんだーって勝手にひとりで盛り上がってそう」
マキがうんうんと頷いていると、机に温かいコーヒーが置かれた。話を聞いていたらしいレイからの差し入れだった。
「世間で言うところの仕事納めみたいなものだな。24日はボスも出席する大掛かりなものだから無理だが、25日ならなんとかなるぞ」
「コーヒーありがとう、レイ。Kとはいつも一緒だから大丈夫だよ」
実は少しだけ期待していた。カナダにいた頃はクリスマスなんて関係なかったし、むしろそれにかこつけて、変なことをされたりもした。近年のクリスマスは良い思い出が全くなかったため、今年はKと一緒に楽しく過ごせるかもしれないも思っていたから。
「だったらさぁ、皆でクリパしようよ!」
大悟の気持ちを悟ったのか、マキが目を輝かせて言った。
「クリパってなに?」
「クリスマスパーティーのことだよぉ。カズ君ん家とドクターの診療所でやろう!」
「でも、迷惑じゃ……」
「迷惑なわけないじゃん。カナカナ、皆で楽しく過ごそうね!」
マキの気持ちが嬉しくて、大悟は笑顔で頷いた。まもなくその話は藤原に伝わり、三人で準備することが決まった。
当初、大悟はそのことをKに伝えようとしていたが、気を遣われる(Kのことだから会合出ないなどと言い出す)ことを考慮して、彼から話が出るまで黙っておくことにした。
結局Kからクリスマスの話は出ず、毎日が濃密に過ぎていき、クリスマスまであと二週間となった頃、Kがようやくそのことを口にした。マキの予想通り、Kはクリスマス会合のことを忘れており、大悟とクリスマスを過ごすために、有給を申し出てくれた。25日はレイとマキが代わってくれたが、24日はどうにもならなかった。
「ごめんね、ハニー。クリスマスイブ、一緒にいられなくて」
事前に聞いてたから大丈夫だと言えば、Kは不機嫌な顔になった。
「クリスマスパーティーのこと、なんで俺に言ってくれなかったの?」
大悟が言えば、Kは無理をする。それが嫌だから言わなかった。そんなことを言えるわけもなく、いつも一緒だから平気だよと言えば、Kはますます不機嫌になって、こんなことを言った。
「クリスマスなのに、ハニーは俺がいなくても平気なの?」
平気なんかじゃない、本当はKと一緒がいい。
だが、今更覆すことなど出来ない。クリスマスは来年もあるし、何よりKは大悟のパートナーでいつも側にいてくれる。これ以上望むのは贅沢なのだ。
「いつも一緒にいるんだから大丈夫。KはKの仕事をしてよ!」
つい感情的になってしまい、大悟は冷たく言い放ってしまった。それを聞いたKは、とても悲しそうな顔をした。
「あー、なんか空気が重い」
その後、Kはすっかりしおれてしまい、自席で机に顔を突っ伏して寝ていた。常に大悟にまとわりついて離れないKが、自席でふて寝してる様に、社員達も戸惑っていた。
「俺の言い方が悪かったから……」
大悟がすぐ謝ればよかったのだが、なんとなく言いそびれてしまい、こんなことになってしまったのである。
「カナカナのせいじゃないよ。クリスマスの準備をしなかったサカさんが悪いんだから」
Kがふて寝してるのをいいことに、マキは大悟の頭をよしよしと撫でた。
「けどね、カナカナは、もっとわがままを言っていいと思うな」
マキは大悟の心を見透かして言った。
「急いで大人にならなくていいんだからさ」
「でも、会合はKの仕事だから」
そう言いながらも、大悟は机に突っ伏すKの背中を見つめる。年も立場も上なのに、いつも大悟を優先して側にいてくれる。これ以上のわがままなど言えるわけがない。
「おい、こら、いい加減にしろ!?」
そこに怒りオーラ全開のレイがやってきた。
「仕事中に堂々と寝るんじゃねえ! こっち来い!」
レイはKの首元を掴み、そのまま会議室に連れて行ったのだった。
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