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⑦
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大悟の到着を待つ間に、シラサカはケーキを引き取りに行った。木の幹を模したチョコレートに苺やメロン等のフルーツが散らばったブッシュ・ド・ノエルというケーキが差し出された。特注品らしく、市販はされていないものだった。
ハニー、喜んでくれるかな。
ケーキが入った箱を抱え、タクシーで馴染みのホテルへ出向く。フロントに顔を出して名前を言えば、支配人がすぐやってきて、シラサカにカードを差し出した。
「いつも突然ですまないね」
「お部屋はシラサカ様のものですから。お食事はどういたしますか?」
「食事はいいよ。ただ、このケーキを食べたいから、皿とか用意してもらえると有り難いかな」
会合で少し飲んで食事もした。時間的に、大悟も藤原家のパーティーで食べ終わった頃だろう。
「かしこまりました。お飲み物は冷蔵庫の中にご用意してありますので、他にご希望がございましたらなんなりと申し付けください」
「ありがと。後で連れが来るからよろしくね」
何日か泊まり込んだこともあり、大悟の顔は知られているはずだが、万一のことを考えて言っておく。支配人はかしこまりましたと言って深々と頭を下げた。
ハニーが来たらなんて言おうかな。やっぱり、ここはメリークリスマスだよな。
諸々準備を整えて、部屋で大悟の到着を待つ。シラサカが期待に胸を膨らませていると、来客を知らせるチャイムが鳴った。扉を開けるや、シラサカは準備していた言葉を放った。
「ハニー、メリークリスマス!」
「K、大丈夫!?」
どういうわけか、大悟は神妙な面持ちをしていた。
「うん、大丈夫だけど」
「どこ怪我したの!? 先生に診てもらった!?」
部屋の玄関に立ち入るや、大悟は真剣な表情で、シラサカの頭から爪先までを何度も見る。
「怪我って何? 俺、元気だけど?」
「Kが怪我して家に戻るのが難しいってレイが言ってたから……!?」
大悟を連れ出すためにしたことだろうが、少々やりすぎである。シラサカは今にも泣きそうな大悟を右手でひょいと抱き上げ、部屋の中へと入った。
「ハニー、それ、嘘だから」
「でも、藤原も知ってたし!?」
どうやらレイはカズミも巻き込んだようである。
「だったら、俺の体、触って」
元気であることを示すため、シラサカは大悟をソファーに座らせ、ぴったりくっついて座る。
「本当に? 我慢したりしてない?」
なかなか信じてくれない大悟は、シラサカの額や頬を触る。心配してのことだとは思うが、自分よりレイの言葉を信じ切っていることが、内心気に入らないシラサカであった。
「我慢なんかしてないよ。ハニーとクリスマスを過ごしてきていいって、ボスも言ってくれたからさ」
「そうなの?」
花村の名前を出した途端、大悟の態度が軟化する。
「そうだよ。明日のドクターんとこのパーティーも欠席でいいって話だから、今日も明日のクリスマスもずっと俺と一緒だよ、ハニー」
そう言って、シラサカは大悟を優しく抱きしめた。ようやく信じてくれたのか、大悟はシラサカの背中に手を回し、ぎゅっとしがみついてきた。
「カナダに行ってからのクリスマスは全然楽しくなかった。嫌な思い出ばかりだった……」
日本へ戻ってきてすぐの頃の大悟は、当時のことを夢に見て、泣いたりうなされたりしていた。何があったのかを口に出すことはしないけれど、とても大きな傷であることはシラサカにもわかっていた。
「だから日本へ戻ってきて、色んな事が片づいて、今年はKと一緒がいいなって、ちょっと思ってた」
「そっか。俺がもっと早く気づいていればよかった。ごめんね、ハニー」
「ううん。だって俺、今、ものすごく幸せだから。Kの側にいて、愛してもらって、ハナムラの皆にも優しくしてもらって、本当に幸せだから」
大悟はもっとわがままでいい、そうでないといけない。シラサカは体を離した後、彼の右頬にチュッとキスをした。
「ハニー、幸せはいくつあってもいいんだよ。そうそう、ハニーにボスとレイからクリスマスプレゼントがあるんだ」
テーブルに置いたケーキの箱を見せる。ケーキ皿やフォーク、切り分けるためのケーキナイフまで準備してある。
「ケーキかな?」
「うん。ハニーのための特注品だって。開けてみて」
大悟はこくりと頷いて箱を開けた。
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