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(31)side:ミッチー
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塚ちゃんが
俺の天使が
ある日突然学校から姿を消した──
「あっちぃー、何だよこのクソみたいな暑さ」
「うるせぇな、お前の存在そのものの方が暑苦しいわ」
「…ひでぇ」
夏休みに入った。
毎日毎日これでもかと太陽は世界を照らし続ける。
自分の部屋のクーラーが壊れたとかで、伊吹が俺んちに毎日のように姿を現すようになったのは最近の事。
うちも親が共働きで夜まで誰もいないから特に都合が悪い事もないんだけど、こうも毎日顔を見せられると段々鬱陶しくなってくるのは仕方がないと思えた。
「お前他に友達いねぇの?」
「うん」
「…うんて」
「いや、いるにはいるけど俺はお前といる方が気ぃ遣わなくて楽だし」
「だからって毎日押しかけて来られても困るんだけど」
「何で?」
「…何でって」
「言ったっしょ、クーラー壊れてるって」
「それ自分の部屋のだろ?リビングとかにいればいーじゃん」
「落ち着かねぇし」
「…我慢しろよ」
「ムリ」
無遠慮に人のベッドに寝転がりながら雑誌を広げ、布団の上で物を食うなと何度言ってもわからない伊吹は今日もアイスを片手に俺を心底ひやひやさせてくれている。
溢したら責任持って新しい布団買ってこいよと凄んでも、うん、の一言で話にならない。
2人でこうして部屋に籠ってても特にやる事はなく、お互いがそれぞれ好きな事をして時間だけがいつも過ぎて行く。
ぼうっとしてしまうのは毎度の事で、そんな時にふと考えるのは天使の事だった。
あの一件以来、俺は塚ちゃんを一度も見ていない。
次の日から数日学校を休んでも、あんな事があった後だから、と、俺は連絡を取らなかった。
今思えば、あそこで何が何でも塚ちゃんに会おうとしていれば何かが変わったのかも知れない。
一か月も姿を見なければ流石に心配になって、俺はあの日教えて貰った塚ちゃんのマンションへと息を切らせながら走った。
何度行っても何度チャイムを押しても何も反応がないその部屋へ、俺は本当に毎日のように通った。
一日張り付いても誰の人影も見なかった俺は、嫌な予感がして担任に詰め寄った。
それこそ鬼のような形相をしていたんだと思う。
口止めされていたのか、渋々担任は塚ちゃんが転校した事を話してくれた。
何処へ転校したのか、何処へ引っ越ししたのか、どれだけ凄んでも担任は知らないの一点張り。
本当に知らないのかもしれないと諦めた俺は、その日からずっと塚ちゃんが使っていた席に座って、塚ちゃんに想いを募らせた。
俺の天使がいなくなってしまった。
俺の天使が消えてしまった。
何処にいるのかなんてもう分からないだろう。
あんな事があったんだ、ムリもないのかも知れない。
だけど、せめて俺にだけでもいいから連絡先を教えて欲しかった。
塚ちゃんの意思なのかそうじゃないのかそれはわからないけど、でも、俺にだけは。
純真無垢な俺の天使。
愛らしくて天真爛漫な俺の天使。
彼に会うために、もしかしたら俺は学校という場所に通っていただけなのかも知れない。
それでも俺は学校に通い続けた。
その場所にしか、彼との思い出がないから。
脳裏に、少し高い可愛らしい声がふと響く。
──ミッチー!!
声と共に、そのキラキラと輝く笑顔まで蘇って、不覚にも鼻の奥がつんと痛みを訴えた。
「…くそっ、」
もう会えないのだろうか。
塚ちゃんに、会えないのだろうか。
「ミチル?」
「…何だよ」
「…いや、何でもねぇ」
ソファの上、折り曲げた膝に額を乗せる。
伊吹に見られただろうか。
だから彼は気まずそうにすぐ俺から視線を外したんだろう。
別に泣き顔くらい見られたっていい。
もうそんな事どうだっていい。
会いたい。
天使に会いたい。
「…塚ちゃん」
呟いた声が思いの外女々しさを含んでいて思わず口を引き結ぶ。
あの子は俺の癒しだった。
本当に癒しだったんだ。
幸せならそれでいいとか綺麗事を言える余裕さえないくらい。
塚ちゃん、俺はずっとずっと、君と友達だと思ってるから。
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