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体を売るなら僕に売れ02
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―もしもーし―
―ねぇ、いつまで休んでるの?―
―大学で先生も心配してるよっ―
―アパートに知らない人が住んでたんだけど―
―元気ならいいんだけど―
―連絡くださいな―
―……寂しいよー―
河南からだ。
着信が三件。
全部河南から。
ホストになったことだけは伝えたが、流石に類沢の家に住んでるとは言えない。
言えば、喜んで来そうだからだ。
今になって河南が類沢に惚れていることを恨む。
「メール?」
突然洗面所に入って来た類沢に驚いて、携帯を落としてしまった。
「なにやってんの……」
呆れながらも、優しく拾ってくれた。
「彼女からです」
俺は少しの皮肉を込めて答えた。
彼女に会いたくても働かなければならないのだと。
「店に来ればいいじゃん」
「なに云って……」
だが、類沢の目は笑ってない。
お風呂上がりで濡れた髪を梳きながら、鏡越しに見つめてくる。
「好きなら彼氏の借金の為に身を削るよ。恋人ならね」
冷たい響き。
「それは……ホストにしか通用しませんよ」
俺は歯ブラシをくわえる。
シャカシャカ。
鏡の中の類沢は寂しげに笑んでいる。
「今日は出掛けるから、合い鍵置いていくね」
話を逸らしたのか。
聞かないふりなのか。
それとも、それが返事なのか。
「いいんですか?」
あくまで赤の他人だ。
不用心すぎる。
類沢はドライヤーを片手に出て行く所だったが、振り返ってこう言った。
「瑞希は盗っ人?」
パタン。
俺は歯ブラシをくわえたまま、何も言えなかった。
宣言通り、昼に類沢はいなくなった。
残されて手持ち無沙汰な時間を弄ぶ。
探検してみようか。
そーっとリビングから類沢の部屋に忍び寄る。
扉に手をかけて、中を覗く。
「失礼しまーす」
ホテルの一室かと思った。
無駄のない完璧な配置の家具。
大きなドレッサーと机。
背もたれの高い椅子。
装飾が隅なく施されているその背をなぞる。
クッションも厚い。
そして、美しいタペストリー模様のシーツに包まれたベッド。
ダブルベッドだ。
いや、キングサイズか。
少し乱れたシーツが生活感を漂わせる。
カチカチ。
窓の一面を除いた三方の壁で時計が鳴っている。
三つもいるだろうか。
恐る恐る机に近づく。
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