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傷物の君 十
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節約をしたかったから、買ってあげなかった訳じゃないよな。
……嫌がらせだろうか。
そこまで考えて、ふと違和感を覚えた。
最初から何も買ってあげないのも、一冊だけ買ってあげて、その後は買ってあげないのも悪い印象にはなる。でも嫌がらせをしたいだけなら、最初から買わない方がお金もかからないしいいんじゃないのか?
もしかして絵本は元から家にあったもので、買ってもらったものではないのだろうか。
「喜津愛、その絵本は親に買ってもらったものなのか?」
「いや……元から家にあったから、父さんか母さんのだと思うよ。父さんが俺の顔に向かって投げてからは、俺が読んでたけど」
「……ごめん。かなり余計な事聞いたな」
「え、なんで真にぃが謝るの?」
心の底から不思議そうに、喜津愛は首を傾げる。
俺は何も言わずに椅子から立ち上がった。喜津愛のそばに行って、華奢なその身体を抱きしめる。
「喜津愛、そのきつねといのししのはな、百種類以上の物語があるんだよ」
「え、そうなの?」
「ああ。だからとりあえず十冊買いに行こうか」
「え、そんなに要らない」
目を丸くしてから、喜津愛は勢いよく首を振った。
「欲しくないのか?」
「いや……欲しい」
「なら買おう」
「……ありがとう」
俺の腰に腕を回して、喜津愛は笑った。
「喜津愛、デザート食べたい?」
「うん! 食べる!」
「わかった。じゃあ作るから、少し待っててな」
クラムチャウダーと白米を食べきってから、俺はキッチンに行った。
冷蔵庫からチョコレートをとると、俺はそれを湯煎でとかした。バナナとリンゴの皮をむいて、それぞれ一口大に切る。
いちごはヘタをとって水で洗った。
いちごを皿に入れたら、切った果物フォークを同じ皿に入れた。それと、溶けたチョコレートが入ったボウルをテーブルに持っていく。
「はい、喜津愛。チョコレートフォンデュ」
「わ、食べていいの?」
「もちろん」
喜津愛はすぐにフォークを手にとって、いちごに刺した。そしてそのまま、いちごを口に持っていった。
「喜津愛、いちごをこれにつけて食べるんだよ」
チョコレートが入ったボウルを指さして教えてやる。
「え……そんなことしていいの?」
まるで、してはいけないと思っているかのような言い方だった。
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