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星は夜に抱かれ光り輝く〜人の顔がお金に見えちゃう貧乏貴族オメガは玉の輿にのりたい!のに苦学生アルファに恋する?〜
2話
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セルジュ・ド・エトワールは男爵家の長男だ。
長男と言っても、第二性がオメガであるため後継ではない。
爵位は最近ベータ性であることが分かった弟が継ぐことになっている。
彼にとってそれは大きな問題でもなければ理不尽に感じることもなかった。
爵位は愛する弟が継げば良い。
しかし、懸念が一つ。
エトワール男爵家は今、財政難なのだ。
ここ数年治める領地が不作続きで、兎にも角にもお金がない。
領民たちが飢えないように税を抑えて、なんとか凌いでいる状態だ。
そこに、元々体の弱かった父が病に倒れた。
もうてんてこ舞いである。
長男である自分がなんとかしなければならない。
悩みに悩んだセルジュの結論は。
(お金のある家に嫁いで援助してもらう!)
セルジュは様々な社交会に参加するようになった。
幸い、オメガらしく容姿には恵まれている。
星の光を写したような金色の髪に薔薇色に色づいた頬と唇。扇のようなまつ毛に縁取られた翠の瞳はいつも宝石に例えられた。
この国では結婚をするには丁度良い18歳で、社交会では貴族や大商人の子息に声をかけられぬ日はなかった。
それにも関わらず今まで婚約者どころか恋人もいなかったのは、セルジュが内気で上手く人の前で笑えなかったからだ。
どうせ家を継ぐこともないからと、今までは無理矢理連れ出される日以外は部屋に篭って本を読み暮らしていた。
しかし、もうそんなことは言っていられない。
セルジュは己の武器を全て使い、必ず家の財政を立て直してから弟に爵位を継がせると決意した。
が。
「結婚の、ご予定……ですか……」
数少ないオメガ仲間である伯爵家令嬢に招待されて、新年を祝うパーティに参加していた時のこと。
シャンデリアの輝く豪華な広場では、男性も女性も色とりどりの正装をして談笑している。
そんな中でダンスに誘ったくれたのは、この国では誰もが知る大商人の息子だった。
様々な女性やオメガと浮き名を流す典型的な遊び人だが、セルジュにとってそんなことはどうでもいい。
(美男子で有名なアルファに向かって申し訳ないけど、もう顔がお金にしか見えない)
セルジュは麗しいと評される顔に笑みを浮かべて、水色の服を翻して彼とダンスを踊った。
慣れた手つきで腰を抱かれ、肩を抱かれ、顔と顔が近づく。
とにかく、距離の近い男だった。
周りから羨望の眼差しを受けるが、正直なところセルジュは鳥肌を立てている。
アルファとしてのフェロモンに流行りの香水の甘ったるい匂いが混ざって、腹が気持ち悪い。
会話の内容が入ってこなくなってきた。
(これはまずい!絶対に相性が良くない……!)
しかし、相手はそんなこと気にした風もない。
「どうやらお疲れのようですね。少し個室で休みますか」
「は、はい」
個室で休む、ということが何を意味するのか。
セルジュはギュッと胸の内ポケットを握りしめる。
(上手く、いくといいけど)
相性が良かろうが悪かろうが関係ない。
男が継ぐはずの財産がどうしても欲しかった。
この時のために、家にあった本を全て売って用意した「発情誘発剤」。
この国ではたとえ事故であっても、番になってしまえば責任をとるのが常識だ。
もしも一方的に番を解消することがあれば、そのアルファは周りに後ろ指を刺されることになる。
(ごめんなさい、いくらでも愛人作っていいから結婚だけしてください! というかもうお金だけ欲しい!)
祈るような気持ちで甘えるふりをして肩に頭をすり寄せた時。
「そこの浮気者、婚約者殿に言いつけるぞ」
涼やかな声が聞こえると、隣を歩く男がピタリと止まった。
セルジュの肩を抱く手が緩み、色気たっぷりに微笑む口元が引き攣る。
二人同時に振り向いた先を見て、セルジュは目を見開いた。
夜空を閉じ込めたような漆黒の髪と透き通る紫の瞳の美男子がそこには立っていた。
身長はセルジュより一つ頭分も高く、正装をしていても鍛えていることが分かる体躯をしている。
黒一色のシンプルな服が、彼の華やかな容姿を際立たせる。
間違いなく、アルファだろう。
「カルロス、こういう場でそれを言うのは」
「こ、婚約者?」
ため息をついている隣の男の言葉を遮り、セルジュは唖然とカルロスと呼ばれた美男子の言葉を復唱する。
カルロスは目線をセルジュに向けた。
生真面目そうな紫の瞳は、戸惑う緑の瞳と視線を交え、ふんわりと柔らかい色に変わる。
「やはりご存知なかったんですね、美しい人。そいつには近々結婚の予定があるんですよ」
「け、結婚の……ご予定ですか……」
「結婚前に少し羽を伸ばそうという親友を見逃してくれないか?」
「それならこんなに清らかな人を誑かすのは良くないな」
戸惑うセルジュをよそに、アルファ同士で火花を散らしている。
どちらも笑みの表情だが、纏う空気は全く穏やかではない。
特にカルロスの威圧感は、有無を言わせぬものであった。
隣に立っていた男は諦めたように肩をすくめると、セルジュの手の甲にキスをして軽やかに去っていく。
(危なかった)
甘ったるい香りが遠ざかって、大きく息を吸う。
懲りずに若い女性に声を掛けている様子を見ながらセルジュは鼓動の早い胸を抑えた。
さすがに、結婚の予定がある人を無理に番にしてしまうのは気が引ける。
上手く事が運ばずにがっかりするとともに、どこかほっとする自分がいた。
相手を騙し討ちするやり方は、やはり気持ちが重い。
(でも、そんなこと言ってられないし次こそは)
「差し出がましいかと思ったんですが」
決意を新たにしているところで、カルロスが眉を下げ、一歩近づいてきた。
おそらく、どうするべきか悩んでから声を掛けてくれたのだろう。
セルジュは微笑みを浮かべて首を左右に振る。
「いえ、とんでもない過ちを犯すところでした」
誠実で正しい行動だったと思うし、心からの感謝だった。
しかし、また相手を探さねばならないという不安も頭をチラつく。
目の前にいる青年はアルファには間違いないだろうが、身元が分からない。
どのように探りを入れようかと頭を巡らせていると。
カルロスがスッと手を差し出してきた。
「気持ちを切り替えるお手伝いになれば」
「ありがとうございます。カルロス様」
優雅で流れるような仕草に見惚れ、自然とその手をとってしまう。
力強い腕に腰を抱かれて踊る時間は、まるで夢のようだった。
優しく見つめてくれる紫の瞳に温かい手、逞しく広い肩に厚い胸板。
そして何よりも、ふわりと鼻を擽り心を騒めかせるアルファのフェロモン。
新鮮な果実のような爽やかさは、セルジュ好みの香りだった。
(なんだろう……どこか懐かしい……)
ゆったりとしたテンポの曲に変わり、ピタリと体を寄せながら。
ついさっき出会ったばかりの相手とのこの時間が、ずっと続いて欲しいと感じた。
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