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星は夜に抱かれ光り輝く〜人の顔がお金に見えちゃう貧乏貴族オメガは玉の輿にのりたい!のに苦学生アルファに恋する?〜
3話
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「カルロス様は、珍しい響きのお名前ですね」
「故郷が隣国との国境付近なのです」
体を離すのを名残惜しく感じて長い時間踊っていたが、セルジュの体力が尽きてしまった。
なんとか食らいつこうとしたが、気がついたカルロスに休憩しようと言われてしまう。
そのまま一緒に居てくれそうな口振りだったので、セルジュは安心して頷いた。
広間の端に設置された猫足の椅子に腰掛け、丸テーブルに並んだ軽食をつまんで談笑する。
カルロスは平民出身の学生で、貧しい田舎から出てきたため、姓も無いのだと笑った。
だからだろう。セルジュも
「私も田舎の出身なんです」
と、躊躇せず伝えることが出来た。
カルロスはセルジュにとても興味を持ってくれている。
好きなこと、好きなもの、住んでいる場所のこと。
これまでセルジュに声を掛けてくれた人たちは、美貌のオメガにアピールするために自身の話ばかりしていて。
セルジュは彼らの話に相槌を打ち微笑みを浮かべるだけで、ぼんやりと話を聞き流してしまっていた。
でも今は、カルロスとの時間が楽しくて仕方がない。
もっと彼のことを知りたいし、知って欲しかった。
財力のある結婚相手を探すことなど忘れて、カルロスとこのまま過ごしたかった。
「シャルル皇太子殿下も通ってらっしゃるという、あの……?」
「背伸びをして、在籍させていただいてます」
カルロスの通う学校が話題になった時、セルジュは目を丸くした。
それはこの国で最高峰の教育が受けられると言われる、上位貴族や金持ちの子息が通う学校だ。
セルジュやカルロスと同い年の皇太子も、今はその学校に通っている。
財力のない田舎貴族のオメガでは到底行くことのできない場所だった。
カルロスはその狭き門に、奨学生として入ることが出来たのだという。
なんとか学校への交通費を捻出して田舎から出てきたため、一度も実家に帰れていないとか。
今日はセルジュと同じく、パーティ主催の伯爵令嬢に招待されて参加したらしい。
場違いだと断ろうとしたが、先程の金持ちのアルファに、将来のために人脈を作れと引き摺られてきたのだと。
セルジュは伯爵令嬢の話を聞いて想像を膨らませていた、煌びやかな学校生活に思いを馳せて目を輝かせた。
「皇太子殿下は素晴らしいお方だと聞いております。お話したことはありますか?」
友人の伯爵令嬢に会うと、セルジュはいつも皇太子の話をねだる。
文武両道でカリスマ性溢れる皇太子の周りには、いつも人が絶えないのだという。
心も容姿も誰よりも美しく、本当に素敵な人なのだといつも話してくれた。
今度はカルロスが目を瞬かせる番だった。
前のめりになって首を傾げるセルジュに柔らかく目を細める。
「貴方は、皇太子殿下にご興味が?」
「ない人はいないです! 伝え聞くだけでワクワクする。剣術大会で優勝なさったとか、舞踏会で足を怪我したご令嬢を抱いて医務室に連れて行ったとか……まるで、恋物語に出てくる王子が飛び出してきたような方……って、いやその」
夢中になって話しているうちに、ハッとする。
セルジュは慌てて興奮で紅潮した頬ごと口を手で覆った。
これではまるで。
「まるで夢を見る少女のような方ですね」
はっきりとカルロスに言われてしまった。
セルジュの顔は、今度は羞恥で真っ赤に染まる。
もう18歳にもなって、物語の王子に憧れているなどと。
幼い頃からなんでも話せる親友である伯爵令嬢以外には、知られたくはなかった。
カルロスの声には呆れや嘲笑の色は読み取れず、心から微笑ましいと思ってくれていそうなのが救いだった。
なんとか持ち直そうと、コホンと軽く咳払いをする。
「お恥ずかしいです。もっと現実を見なければいけないのに」
「現実、ですか」
「はい、そろそろ結婚相手も……」
口に出して思い出す。
自分がここに何をしに来たのかを。
何故わざわざオメガの発情を促す薬を、大切な本を売ってまで手に入れたのかを。
(結婚相手を探さないと!)
突然言葉を切って黙ってしまったセルジュの言葉を待ってくれているカルロスから目を逸らす。
カルロスと一緒にいると、初対面なのに落ち着くしなんでも話せる雰囲気で。
穏やかに微笑む整った顔を見ていると胸がときめくし、醸し出されるフェロモンは永久に吸っていたいほど。
はっきり言ってもうすでに恋の種が心に植えられてしまっている自覚はあるが。
(お金……っ)
残念ながら聞いた話では、どう考えてもカルロスと結婚することはできない。
家族と領民のために、財政を立て直す目標を捨てることはセルジュにはできなかった。
本来であれば、きちんと金策を練り国や周辺の領に助けを求めるべきなのは分かってはいる。
だがそのための駆け引きの方法をセルジュは知らなかったし、教えられる者も居なかった。
セルジュのぐるぐると重い心の内は無意識に表情にも現れており、カルロスが気遣わしげに口を開きかけた。
だがそこに丁度、
「お二人とも、楽しんでいらっしゃいますか?」
と、鈴が転がるような声が話しかけてくる。
このパーティにセルジュとカルロスを招待した伯爵令嬢だ。
背中まで波打つ赤毛によく似合うエメラルドグリーンのドレスを閃かせ、人好きする笑顔で二人の前にやってきた。
スッと差し出された赤色が揺れるグラスに、セルジュはカチンと自分のグラスを合わせる。
「はい、招待いただきありがとうございます」
「楽しませていただいてます」
同じように、カルロスもグラスを重ねた。
学校でもこのようなイベントがあるのだろうか。
流れるような仕草は本物の貴公子と比べても遜色なく、高貴な雰囲気を纏っている。
(アルファだから、飲み込みも早いんだな)
カルロスと話し始めるまでは、ボロが出ないようにずっと気を張っていたセルジュは羨ましかった。
見た目はいつも褒められるが、ちょっとしたことで田舎臭さが出ていないかといつも緊張しっぱなしだ。
そんなセルジュの気持ちには気がつかない伯爵令嬢は、二人を見比べて嬉しそうに顔を綻ばせる。
薔薇色の唇の間から白い歯を見せて、声を弾ませた。
「お二人が並んでいると絵になりますわね! 仲良くなってくださったなら、招待した甲斐があったというもの……っきゃ!」
小さく声を上げて、ぐらりと揺らいだ伯爵令嬢の体をセルジュは咄嗟に支える。
胸に冷たい物がかかるのを感じながら伯爵令嬢の後ろを見ると、男性が軽く謝罪して通りすがって行った。
人が多い場所ではよくある事だ。
目くじらを立てるほどのことではない。
「驚きましたわ……ありがとうございますセルジュ」
「いいえ、ご無事で何よりです」
「でも、服は着替えた方が良さそうですよ」
「へ?」
紳士的な笑顔を向けたセルジュだったが、カルロスの言葉に慌てて自分の姿を見下ろした。
涼やかな水色の上着も、その下の白いブラウスも。
一部が真っ赤に染まっている。
伯爵令嬢の持っていたグラスの中身を、セルジュは全て服で受け止めてしまったのだ。
「まぁ! 私としたことが、なんてことを!」
「大丈夫ですよ、このくらい」
真っ青な顔になる伯爵令嬢を前に暗い表情をするわけにはいかない。
強張りそうな顔をなんとか笑みの形にし、セルジュは落ち着いた声を出して彼女の肩に手を置いた。
だが当然、本音では。
(うわぁああん一張羅がー!!)
と悲鳴を上げている。
なんと言っても、セルジュの家は財政難なのだ。
セルジュは季節を問わず、全てのパーティにこの服で出ていたのだから。
ワインのシミがきちんと落とせるのか、頭の中で半泣きで考える。
すると、セルジュの家の状況を知っている伯爵令嬢がギュッと手を握ってきた。
真剣な眼差しが、セルジュの緑色の瞳を射抜く。
「着替えを用意します。もちろんそのまま差し上げますわ。別室でお待ちくださいませ」
彼女は「別室」の場所を説明すると、足早に使用人と思しき男性に声を掛けにいった。
遠慮をする隙もなく戸惑っているセルジュを見ていたカルロスは、安心感と余裕のある声で笑いかけてくる。
「手伝いますよ」
「ひ、一人で着替えられます!」
男同士といえども、番でも恋人でもないアルファに手伝ってもらうのは気が引ける。
勢いよく首を振るセルジュの金色の髪を、カルロスはそっと撫でた。
「では着替えが来るまでご一緒します。一人で個室にいるのは危ないですから」
光の強い紫色の瞳に諭され、確かにその通りな気がしてセルジュは頷いた。
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