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星は夜に抱かれ光り輝く〜人の顔がお金に見えちゃう貧乏貴族オメガは玉の輿にのりたい!のに苦学生アルファに恋する?〜
7話(完)
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カルロスと出会ったパーティから数日後。
伯爵令嬢に「山にある別荘でお茶会をしましょう」と誘われた。
普段はパーティの時と同じく屋敷に招かれるのにと思いつつも、いつも通りの軽い気持ちで足を運んだセルジュは驚愕の悲鳴を上げる。
「心の準備が全然出来てない!!」
なんと、今日はシャルル皇太子が学友である伯爵令嬢の元にお忍びでやってきているのだという。
セルジュは手入れの行き届いた庭で、白いテーブルと椅子が音を立てるのも構わず立ち上がる。
「俺帰る! 皇太子殿下になんて会ったら気絶するっ!」
「落ち着いてくださいまし、もういらっしゃいましたわ」
「そんなの先に言っ……て……」
慌てふためくセルジュを宥める伯爵令嬢が指し示した先に視線をやり。
セルジュは今度は口を開けたまま固まった。
「ごきげんよう、セルジュ。皇太子のシャルル・ド・ニューイです」
静かな夜のような艶のある黒髪、引き込まれる紫の瞳、精悍な顔立ち。スラリと背が高く、鍛えられているのがわかる体躯。
そして、新鮮な果実のような爽やかな香り。
間違いようもない。
優雅に胸に手を当てて微笑むその人は、セルジュが恋焦がれるカルロスだった。
「か、カルロス……シャルル皇太子……え……うそ……」
あまりの出来事に感情も理性も追いつかない。
間違いなく最初から全てを知っていたであろう伯爵令嬢に、説明を求め視線をやるが。
「それでは、私はこれで。ごゆっくりなさってくださいまし。この別荘は好きに使っていただいて結構ですわ」
と、鈴の転がるような声と微笑みを残して背を向けてしまう。
言い方から察するに、セルジュとシャルルを置いて帰ってしまうつもりだ。
引き止めようとするも、後ろから逞しい腕に抱きすくめられてしまう。
「こ、困ります皇太子殿下! 俺……っいや、私は」
「私では、貴方の困りごとの力にはなれないか?」
「ちが、そんなわけ……!」
身じろぐセルジュの耳元で穏やかに話しかけてくれるのは、口調は違えどもカルロスと同じ声で。
だんだんと、恋をした相手のカルロスと憧れの皇太子が同一人物なのだと心が受け入れていく。
セルジュはおずおずと自身を包む腕に触れた。
「なんで、身分を偽ってたんですか?」
「皇太子という肩書き無しで、貴方を口説きたかったんだ」
小さく笑う涼やかな声が降ってくる。
「そうしないと、私の顔もお金に見えていただろう?」
恥ずかしすぎて、セルジュの顔は真っ赤に染まる。
流石に皇太子相手にそのような無礼な思考にはならなかったと断言できるが、モゴモゴと言い訳がましく口を動かす。
「ダ、ダイヤモンドだったかも」
「ははは、貴方は本当に面白いな」
明るい声を聞きながらも、セルジュはまだ緊張して一緒に笑うことができなかった。
皇太子の力を行使して家の財政を立て直すのは、反則のような気がして。
「で、でもこんな……簡単に……」
「簡単じゃないさ」
真剣な声になったシャルルの腕の中で、セルジュは体の向きを変えられる。
頬に手を添えられて、真っ直ぐにシャルルと対面することになった。
「貴方は家の財政難を解決する代わりに、これから今までの生活が楽に感じるほどの教育を受けるんだ。皇太子の番候補としてね」
そう。シャルルを受け入れれば、セルジュの人生はガラリと変わる。
田舎の貧乏貴族から、一国を統治する皇帝の隣に立つ人間に。
それは、生半可な覚悟ではなし得ないことだろう。
(それでも……カルロスの、シャルル皇太子と居られるなら)
セルジュはグッと唇を引き締め、返事の代わりにシャルルの背に腕を回した。
シャルルは目を細め、そっとセルジュの固く閉ざした唇に自分のそれを重ねる。
こうして二人は、互いの意思を確認しあったのだ。
しばらくそうしてから顔を離した時、シャルルはセルジュの顔を改めて覗き込んだ。
「ところで、あの薬はどうなった?」
「……っ」
使っても良い、ということだろうか。
セルジュは思わず胸元の内ポケットに手をやる。
そして、既に捨てたことを思い出して小さく笑った。
シャルルの腕からスルリと抜け、一歩離れる。
前回会った時のシンプルな黒い礼服とは違う、細やかな刺繍の施された赤い服を着たシャルルの全身を改めて眺めた。
この人の隣に相応しい人間にならなければと、気を引き締め直して口元に弧を描く。
「必要、ありますか?」
「ないな」
挑戦的に見上げるセルジュに、シャルルは再び手を差し伸べる。
「抑制剤も必要ない。私と共に、来てくれるか?」
「喜んで」
強い力で引き寄せられ、ふわりと抱き上げられる。
幸せそうに額を寄せ合う二人はシャルルの卒業を待ち、一年後に挙式を挙げた。
シャルル皇帝の治世は人々が豊かに暮らせる平穏なものだった。
その隣には、貧しい者にも目を配れる美しい番が、いつも微笑んでいたという。
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