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正月を過ぎてからほどなくして、私たち夫婦は予定通り結婚式を挙げた
カジノで負けて大泣きしたことを正直に話すと、妻は笑って許してくれた。
結局、新婚旅行は沖縄までしか行けなかった。季節外れで空いていたし、冬に訪れるのも案外悪くない。
ここだけの話、妻はすでに妊娠していた。だからこそ、お腹が小さいうちに挙式を急いだのだ。
プロのポーカー選手としてトーナメントに招待された文也が、ヨーロッパへ遠征する途中で日本に帰国したという報せを受けたのは、年が明けて月末に差しかかるころだった。
私は、妻の咲希から許可を得たうえで、引っ越したばかりの新居に初めて友人を呼んだ。
東京からそう遠くないベットタウンにある賃貸マンションだ。
子供が生まれて家族が増えるまでの仮住まいで、いずれローンを組んでマイホームを建てるつもりだった。
「少し遅くなったが、結婚おめでとう」
文也は、よせと言うのに余計な気を遣って手土産を持参した。
わざわざアメリカから運んできた巨大なロブスターだ。冗談半分のウケ狙いで、我が家の小さな冷蔵庫にはおさまらなかった。
こちらも、ありがた迷惑を承知のうえで渡しそびれた引き出物をプレゼントする。
咲希は、台所に立って鍋をこしらえ、文句ひとつ言わずにもてなしてくれた。
ガスコンロを置いたこたつが手狭にならないように、せっせと空いた皿を洗って片づける。
「もう帰ってしまうのか? せっかくなんだから泊まっていけばいいのに」
「よかったら是非またいらしてくださいね。いつでも歓迎しますから」
文也は、あまり夜遅くまで長居すると悪いからと言って、そそくさと座布団から腰を上げる。
私自身、少し飲んでいたので車を出すことができず、タクシーを呼んで玄関先で見送ることにした。
「じゃあな、幸せになれよ」
文也は、別れ際にそれだけ言い残して旅立っていった。
その日以来、彼とは一度たりとも会っていない。ほとんど連絡も取っていない。
お互いの気持ちを知ってしまった以上、これからも変わらず友達のままではいられない。
けれども私たちは、今でも心のどこかでひそかに通じ合っている。
いつか私よりも素敵な恋人が見つかることを願ってやまない。
(終わり)
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