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1)倒れていた男
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俺が病院帰りに最寄り駅から歩いていると、道端でうつ伏せに倒れている人影があった。近づいてみると、男のようだ。身長は低めで細い身体をしているので、幼く見える。この寒空の下、半袖Tシャツにジャージのハーフパンツで息を荒くしている。
「大丈夫ですか?」
事件には巻き込まれたくないので、慎重に声をかける。返事がない。危ない状態かもしれない。俺はしゃがみこんで、肩を叩く。
「おい。大丈夫か?」
「ううっ。」
男は、仰向けに体勢を変える。暴力事件にでも巻き込まれたのか、顔が痣だらけになっている。
「……はぁ。仕方ない。」
俺は携帯電話で救急車を呼んだ。
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「あれ?お前、帰ったんじゃないの?」
内科の同期に声をかけられる。
「急患を運んできた。警察沙汰だから。」
「ああ。そりゃ大変だ。お疲れさん。」
同期が行ってしまうと、処置室から救急のドクターが出てくる。
「君が付き添い?」
「はい。ここの整形外科で働いている河西です。」
「ああ。それじゃあ、話が早いかもな。警察への説明は君に任せていいかな。」
「あ、はい。」
「じゃあ、これカルテ。傷は大したことない。骨も大丈夫だし。脳のCTも問題なし。警察の事情聴取終わったら帰れるから。」
「はい。分かりました。」
「君も面倒なの拾ったね。」
そういうと、ドクターは去っていく。
「いやだぁぁぁ!!」
処置室からは、悲鳴が響いてきた。怪我に消毒液でも染みているのだろうか。
渡されたカルテを見てびっくりする。そこには、『男性による性レイプ対象』と書かれていた。
「マジかよ。」
思わず、声が出た。
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「えっと、それじゃあ、佐藤さん?誰にやられたか話してくれるかな?」
佐藤と呼ばれたその男は、うつむいたまま何も話そうとしない。頬に貼られた大きめのガーゼが痛々しい。
「困ったな。どこでどんな奴にやられたか分かる事だけでも話してくれないと。」
刑事が困ったように頭を掻いている。
「えっと、河西さん?あなたは怪しい人影とか見てませんか?」
「いや、俺は何も。」
「そうですか。……そしたらね、佐藤さん。明日でいいから警察署に来て書類書いてくださいね。今日はもう遅いから。泊まる所はあるかな?家まで帰れる?」
佐藤は、首を横に振る。
「……この病院は、入院とかは?」
「あいにく病床がいっぱいで。この程度だと帰宅させるように言われてます。」
佐藤が、ビクッと体を震わす。
「困ったな。佐藤さんが良ければ、うちの署に泊まってもらう事も出来るんだが。何せ怒号が止まないような署なので、ねぇ。」
急に、スーツの裾を引っ張られた。となりに座っている佐藤の仕業だった。
「……かさいさんちじゃダメですか?」
この部屋で初めて聞いた佐藤の声は、迷子の子供のように、か細く震えていた。
「……うーん。河西さんにも明日、署に来てもらわないとだから、一緒にいて頂けると助かるのですが。どうでしょう?」
明日は久しぶりの休みだというのに、ツイていない。こうなったら、付き合うしかないだろう。
「……分かりました。」
刑事達は、明らかにホッとしたようだ。当の本人、佐藤は、スーツの裾を掴んだまま下を向いていた。
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