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2)自己紹介
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「ほら、着いたぞ。」
タクシー代を支払って、買ったばかりのマンションに入る。
億ションなんて、夢のまた夢。郊外の小さなマンション。叔父の家だったものを、中古で安く譲り受けたものだ。それでも、エントランスにはオートロックが付いている。
「どうした?おいで?」
ロックを開けると、佐藤を手招きする。佐藤はエントランスの入り口で立ち止まっている。仕方がないので迎えに行くと、佐藤はビクッと体を震わせた。
「ごめっ、ごめんなさいっ!!ゆるっ、許してくださいっ!!」
佐藤は、いきなり大声を上げて、そのまま泣き崩れてしまう。
「どうした、どうした?大丈夫。大丈夫だ。俺は怒ってない。」
俺は泣き崩れた佐藤と目線を合わせ、抱き締めてやる。通常なら、小学生にやるような手段だ。
「何をそんなに謝ってるんだ?」
「だって、タクシーとかこんな高そうなマンションとか。河西さん、お金持ちなんでしょ?俺みたいな汚い奴、こんな所いちゃダメなんだ。」
「君は、汚くなんかないさ。俺だって、君が思うほどお金持ちじゃないし、きれいでもない。タクシーは近かったから、そんなにかかってないよ。とりあえず、ここは寒いから、部屋に入って、それから考えようか。なっ。」
「……うぅぅぅ、ひっく。ひっく。」
「ほら、おいで。」
俺は、佐藤の手を引いて自室に向かった。本当に厄介なものを拾ったかもしれない。
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レンジで温めたホットミルクを、ソファに居心地悪そうに腰かけた佐藤に差し出す。
「牛乳、飲めるか?少し温まった方がいい。」
「……うん。」
佐藤が手を伸ばす。受け取る手が震えていて、こぼしそうになり慌てて手を引っ込める。縛られていたのか、手首にも大きな痣がある。
「まだ熱いかな。テーブルに置いて、もうちょっと冷まそうか。」
気づかなかったふりをして、テーブルに置く。
高校生くらいなんだろうか。カルテを見ても名前しか書いてなかった。持ち物が無ければ、自己申告の情報しか書き込めない。
「自己紹介が、まだだったな。俺は河西。これでも医者の端くれやってる。」
「……河西さん。」
「うん?どうした?」
「……お、俺は、ユウタ。みんな、そう呼ぶよ。おれはっ、ゲホゴホ」
「大丈夫か?ゆっくりでいいぞ。ユウタ。」
「コホっ。おれっ、俺は、書いてる。…小説。」
「…そっか。ユウタ、学校は?」
「うん?学校は、もう行ってないよ。俺、27だから。」
「え?」
「俺、27。河西さんとそんなに変わらないと思う。」
「…そっか。俺は28だ。よろしくな…ユウタ。」
なんて呼ぶか一瞬迷った。友達でもないのに、いい大人を下の名前で呼ぶのは不思議な気がする。でも、まぁ、本人は気にしてなさそうだ。
正直、27には見えない。ゆうに10歳以上は年下に見える。
「俺、やっぱり変かな。川藤さん…あっ、えっと、前の恋人。川藤さんにも変わってるって言われてた。」
かわふじさん、このワードに何か隠されている。発言のトーンが変わるのだ。
「ユウタは変じゃないさ。」
「…うん。 ありがと。」
ユウタがちょっとだけ微笑んだ気がした。
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